電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第440回

富士電機(株) 執行役員常務 半導体事業本部長 宝泉徹氏


xEV用に需要絶好調
津軽とマレーシアでも200mm増強

2021/9/3

富士電機(株) 執行役員常務 半導体事業本部長 宝泉徹氏
 富士電機(株)の半導体事業が好調に推移している。電動車両(xEV)向けパワー半導体の需要が急激に伸びており、2020年度(21年3月期)の半導体売上高は前年度比25%増の1383億円と、かつてない伸びを記録した。事業を統括する執行役員常務 半導体事業本部長の宝泉徹氏に現在の取り組みや今後の展望を聞いた。

―― パワー半導体が絶好調ですね。
 宝泉 先行発注もあって足元の受注は少し高すぎるとみているが、実需ベースだけでも20~30%は増えており、xEV用は供給が追い付いていない。パワーモジュールに必要な他の電子部品や樹脂材料の不足、銅をはじめとする部材の高騰などもあり、xEV用の需給がタイトな状況は当面続くとみている。産業用も22年まではタイトな状況で推移しそうだ。

―― 売り上げが大きく伸びていますね。
 宝泉 20年度は、産業用のなかでも特に風力発電や太陽光発電などの新エネルギー向けが中国市場で伸びた。当社のパワー半導体はもともと中容量帯が主力だったが、10年ほど前からポートフォリオの変革に取り組み、電鉄やインフラ向けの大容量帯に加え、4~5年前からは小容量帯も強化したことが奏功した。
 またxEV用では、既存顧客の台数増に加えて、約5年前に獲得した複数の新規顧客への量産出荷が本格的に立ち上がっており、数量増に寄与している。

―― 5年間(19~23年度)で1200億円を計画していた設備投資を前倒しで実施しています。
 宝泉 旺盛な半導体需要に伴い、製造装置も納期が長くなりつつあるため、早めに手を打ってきた。8インチの山梨工場はフロアがすべて埋まり、あとはボトルネックを改善する程度の余地しかなくなった。
 今後は富士電機津軽セミコンダクタに8インチラインを導入して生産能力を増やす。下期から量産出荷する予定で、22年度中にはクリーンルームをすべて埋める予定だ。並行して、松本工場でも8インチラインの増強を進めている。

―― ディスク媒体事業の終息に伴い、マレーシア工場も増強する予定です。
 宝泉 マレーシア工場には現在6インチラインがあるが、今後は8インチを増やす。後工程の増強も予定しており、これらは津軽に続く投資案件になる。こうした一連の投資によって、全社ベースの月産能力は25年ごろには6インチ換算で現状の1.3~1.5倍程度にまで引き上げられるのではと想定している。

―― SiCパワー半導体の需要が前倒しで立ち上がると想定していますね。
 宝泉 欧州が35年以降にハイブリッド車の販売を事実上禁止する方針を打ち出した影響が大きい。今後はEVが主流になり、バッテリー容量の増大によってSiCモジュールの需要が伸びるとみている。
 当社はすでに松本工場にSiC6インチラインを有しているが、シリコンパワー半導体を8インチにシフトし、既存6インチラインをSiCに転換していく。現中期経営計画の期間内(19~23年度)には生産能力を増やすつもりだ。

―― 300mmウエハーでの量産も検討中ですが、進捗状況は。
 宝泉 引き続き技術検討を進めている。今は8インチの増強計画で手一杯であるため、24年度以降を対象とした次の中期計画で検討する案件として、シリコンでどこまでの需要があるのか精査していく。当社はIGBTが主力で、パワーMOSFETなどに比べて300mm化へのハードルが高いが、ウエハーのばらつきをどこまで許容できるかといった研究開発を継続していくつもりだ。

―― オールジャパンでパワー半導体の共同300mmファブを運用するという構想が報じられています。
 宝泉 報道は承知しているが、当社には正式な相談をまだいただいていない。ウエハー工程の一部を共同運営しても、市場では競合してしまう。

―― 最後に今後の抱負をお聞かせ下さい。
 宝泉 22年も新規顧客向けの生産が立ち上がる予定で、23年まではこの勢いで走る。23年以降をどうするかが今後の課題で、まずはマレーシア工場の活用にしっかり道筋をつける。最大市場である中国でも手を抜くことなく地産地消できる体制づくりを進め、エアコンのインバーター化や産機向けのローカル顧客をさらに開拓し、深セン工場でモジュールの生産能力を増やしていきたい。


(聞き手・特別編集委員 津村明宏)
(本紙2021年9月2日号1面 掲載)

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