商業施設新聞
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No.819

M&Aで規模を拡大する新世界


嚴在漢

2021/8/17

 韓国大手流通企業の新世界グループは、2021年をM&Aの元年として打ち出している。新世界は、自社オンライン事業の規模拡大と人材獲得のため、eコマース企業のM&Aや、新世界という強力なブランドと組み合わせるためのライフスタイル企業のM&Aなどに取り組んでいる。

 21年6月に同社グループの歴史上で最大規模の取引となるイーベイコリア買収を行ったのも、M&Aを通じた企業の価値創出を狙ったものであろう。イーベイコリアの買収によって、取引金額だけではなく、顧客やIT人材まで一気に増やす目論みだ。新世界グループのeコマースサイトであるSSGドットコムとイーベイコリアを合わせると、新世界の韓国におけるeコマース市場の取引額は年間23.9兆ウォン(約2.3兆円)、シェアは14.8%になる。これを通じて、オフライン流通大手であった新世界は、韓国のeコマース業界No.2に飛躍し、オン・オフラインを網羅した韓国トップレベルの流通強者に浮上する見通しだ。

 また、新世界は、人材雇用にも大きな役割を果たしている。IT人材はイーベイコリアから900人、Wコンセプト(オンラインファッションモール企業)から200人余りなど総員1100人以上を引き継いだ。顧客数は、270万人の有料メンバーシップ含む2100万人をイーベイコリアから、490万人はWコンセプトからそれぞれM&Aによって確保した。さらに、21年初頭、SKワイバーンズというプロ野球団を買収し、新たに「SSGランダース」として船出させた。

 そして31年には、韓国版ディズニーランドといわれる「華城国際テーマパーク」のグランドオープンを目指している。華城(ファスン)は京畿道水原に位置するサムスン電子本社隣接の都市である。21年3月に用地買入費用として8669億ウォンを執行したテーマパークの投資総額は、4兆ウォン(約3921億円)を超える見通しだ。

ソウル市中区に位置する新世界グループ本社ビル
ソウル市中区に位置する
新世界グループ本社ビル
 また新型コロナ禍にもかかわらず、特級ホテルの開店も相次いでいる。グランド朝鮮釜山とグランド朝鮮済州島を皮切りに、ソウル市江南区に開店した最上級独自ブランドの「朝鮮パレス」など、20年から21年8月までに6カ所の特級ホテルをオープンさせている。新世界グループは、系列会社同士の連携マーケティングを通して、シナジー効果の創出を図っており、こうした広範囲のM&A戦略の重要な目標でもある。

 また新世界は21年7月、スターバックスコリアの持ち分を追加で買収し、新世界系列のイーマート子会社に編入させた。これは、今後スターバックスのブランドを活用した他系列会社との多様なコラボ事業を強める狙いがあると見られる。スターバックスコリアの持ち分拡大を通してイーマートは、スターバックスの韓国販売関連独占権を獲得することになった。こうした流れでSSGドットコムにてスターバックスのオンラインショップをアピールしたほか、スターバックスの限定グッズをSSGドットコムで販売し好評を得た。これからもそうした系列会社同士の連携マーケティングをさらに強化し、スターバックスのブランドを通して、新世界グループ全体のブランドアップに邁進する戦略だ。

 こうした新世界の積極的なM&A投資は、当分の間持続する見通しで、オンラインショッピングの配送能力を高めるため、物流センターの建設に取り組む計画だ。向こう4年間で1兆ウォン(約980億円)強を投じ、SSGドットコム物流センターの「ネオ」に集中的に投資する。オンライン・ビジネスのさらなる飛躍に向けて、eコマース企業の追加M&Aにも傾注する。不動産中心の新世界グループ資産を戦略的に再配置し、デジタル資産化を図り、顧客に経験を提供するビジネスに投資していく計画だ。10年前の2010年度には全社売上高13.8兆ウォンを計上した新世界だが、20年度はその2倍強増の29.4兆ウォン(約2.88兆円)となった。急成長するeコマース市場において、新世界の10年後の姿に注目だ。
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