半導体の市場が急拡大している。WSTS(世界半導体出荷統計)が発表した2020年の半導体市場は前年同期比6.8%増の4403億8900万ドルで、19年のマイナス成長から一転、20年は市場が急回復した。
そして、半導体市場の成長に伴い、エレクトロニクスガス(電子材料ガス)の需要も増えている。20年度はガスメーカー各社の業績が好調だったが、21年度以降も半導体市場は成長が続く見通しで、ガスメーカー各社はさらなる販売の拡大、そして生産能力の増強を計画している。
アンモニア、臭化水素など増加
電子材料ガスは、半導体や液晶、太陽電池など様々なエレクトロニクス製品を製造する際に使用する特殊な高純度ガスである。大きくは、半導体の配線などを形成する材料ガスと、エッチング(半導体の微細加工などを行う工程)や製造装置のクリーニングなどに使用するプロセス用のガスがある。
例えば、NF3(三フッ化窒素)やCl2(塩素)は製造装置のクリーニングガスとして広く利用されており、WF6(六フッ化タングステン)は半導体のタングステン配線材料として需要が増えている。
NAND(不揮発性メモリー)やDRAM(揮発性メモリー)など半導体メモリーのエッチングガスであるHBr(臭化水素)、CH3F(モノフルオロメタン)、CF4(四フッ化炭素)、C4F8(八フッ化シクロブタン)、C4F6(ヘキサフルオロ1,3ブタジエン)も旺盛な需要が続いている。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)がまとめた20年の主要半導体材料ガス等国内販売実績によると、国内の年間需要金額は531億円(前年同期比3%増)だった。19年はマイナス成長だったが、20年は半導体の需要拡大で、半導体材料ガスの販売も増加に転じた。
20年に需要量が急増したのがNH3(アンモニア)で、前年同期比では53%の大幅増加となった。B2H6(ジボラン)、HBrも前年比で2割以上増加するなど好調で、TEOS、NF3も2桁成長を達成した。BCl3(三塩化ホウ素)、CF4、C4F8、Cl2、N2O(一酸化二窒素)、WF6も20年はプラス成長だった。
半導体が急成長
19年の世界半導体市場は前年同期比12.0%減と大きく落ち込んだが、20年は19年比で6.8%増と市場が急回復した。
20年は世界経済が新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けた一方で、在宅時間の増加によるPC&タブレット端末の需要増、5Gスマホの増加、クラウドサービスのインフラ投資増加などで、半導体市場はプラス成長を遂げた。
半導体の成長を牽引したのはICとセンサーで、ICの売上高は3612億2600万ドル(前年同期比8.4%増)、センサーの売上高は149億6200万ドル(同10.7%増)だった。ICでは、ロジックが前年同期比11.1%増、メモリーも同10.4%増で、ロジック、メモリーはいずれも2桁成長率を達成した。
そして、半導体市場は21年以降も成長が続く見通し。21年は世界経済が正常化に向かい、自動車用など半導体の需要も増加することから、市場規模は20年比で2割増加し、22年は成長率が鈍化するが、引き続きプラス成長を維持すると予測している。
半導体急成長でガス需要増加(写真は第11世代インテルCoreプロセッサー)
ICでは、アナログ、ロジック、メモリーが21年に2桁成長率を達成する見込みで、なかでもメモリーは21年が前年同期比で31.7%増、22年も同17.4%増と大幅な伸びが期待できる。
21年以降もガス需要は旺盛
半導体市場の急成長を追い風に、電子材料ガスの需要は右肩上がりで増加しており、20年度は旺盛なガス需要を背景に、ガスメーカー各社の業績は好調だった。
昭和電工は、情報電子化学品(電子材料用高純度ガスなど)を含む化学品セグメントの売上高が減収減益だったが、情報電子化学品は19年後半からメモリーを中心に半導体需要が回復し、販売数量が増加したことで増収増益だった。
日本酸素ホールディングス(HD)は、20年度の特殊ガス(半導体・液晶向け電子材料ガス、標準ガス、高純度ガス)の売上高が前年同期比で1割増えた。アジア・オセアニアの売上高は前年同期比2割増で、電子材料ガス全体でも増収増益だった。
関東電化工業、セントラル硝子、ADEKAも20年度は増収だった。関東電化工業は主力のNF3、WF6、C4F6の販売数量が増加したことから、高純度ガスを含む精密化学品事業は増収だった。セントラル硝子も半導体用特殊ガスなどを含むファインケミカルが増収だった。
ADEKAは最先端の微細化に対応したDRAM向け新製品の出荷が順調に拡大し、NAND向け製品の販売も堅調だったことから、半導体用高純度ガスを含む情報・電子化学品は増収増益だった。住友精化もエレクトロニクスガスの販売数量が増加し、増収だった。
21年度も電子材料ガスは好調が続く見通しで、昭和電工は第1四半期(1~3月)に続き、第2四半期(4~6月)以降も高い成長が続くと期待している。日本酸素HDも21年度は国内およびアジア・オセアニアで電子材料ガスの旺盛な需要が続くと見ている。
関東電化工業は精密化学品の売上高が前年同期比で1割増、営業利益は同3割増になると予測している。セントラル硝子は21年度のファインケミカルの売上高が前年同期比で1割以上増加すると見ており、ADEKAも半導体用高純度ガスは21年度も引き続き旺盛な需要が続くと予測している。
中国、韓国で投資加速
旺盛な需要に対応するため、ガス各社は引き続き生産能力の増強に取り組んでいる。昭和電工はHBr、CH3F、Cl2の各プラントのボトルネック解消による生産性改善と並行して、新プラントの建設を検討している。また、21年度下期から中国・上海でC4F8およびN2Oの生産を開始する。
関東電化工業もWF6、C4F6の生産増強を進めており、23年度以降に中国・安徽省の拠点でWF6、C4F6、CF4(四フッ化炭素)の生産を計画している。セントラル硝子も中国・浙江省でWF6の生産準備を進めている。
日本酸素HDは中国・江蘇省のプラントでB2H6の顧客評価対応を進めるほか、CH3Fも設備立ち上げが完了している。一方、韓国では、B2H6の生産増強も検討しており、21年にはCH3Fの生産立ち上げを予定している。
ADEKAは韓国で高誘電材料の生産増強を継続するほか、21年度から中国・江蘇省でCl2のライセンス生産を開始する。さらに、22年度には中国でTEOSの量産も計画している。住友精化は22年度に韓国でCO(一酸化炭素)の新工場を建設する。
ガス各社は半導体の生産拠点が集積する中国および韓国で増強投資を加速しているが、米中の対立などでサプライチェーンが混乱する懸念もある。積極的かつ迅速な投資と並行して、生産拠点の分散化も考慮する必要がありそうだ。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾