材料技術をコアに、MSA(マグネティック・センサ&アクチュエーター)とキャパシターで事業展開を図り、素材型デバイス創造企業として八十余年にわたり歩み続ける(株)トーキン(宮城県白石市旭町7-1-1、Tel.0224-24-4111)。2017年に米KEMETと完全統合、20年6月からは台湾ヤゲオの孫会社(KEMETがヤゲオと完全統合)となった。トーキンの経営理念は「素材革新を基に人と地球の豊かな調和と発展に貢献するグローバル企業」。同社を率いる代表取締役執行役員社長の片倉文博氏に、現況および今後の展望などお聞きした。
―― 市況感および業績は。
片倉 20年度から12月期決算に会計年度が変わり、20年4~12月の9カ月間連結売上高は334億円となった。21年1~6月期売上高は前年同期比で約25%増、利益率は前年同期が10%強だったのに対し20%近くになりそうだ(6月上旬時点)。足元は医療系の一部を除き民生系、産業系ともに需要旺盛で、需給逼迫感が続いている。特にエアコンは、通常は6月が生産のピークだが、21年は9月ごろまで続く勢いだ。在宅需要に伴うパソコン系、ゲーム機も引き続き堅調に推移しており、21年内は現状の好調さが継続すると見ている。
―― 工場もフル稼働では。
片倉 そのとおりだ。ノートPCやウエアラブル向けなどに需要が旺盛なポリマータンタルキャパシターを生産するタイ工場は、フル稼働の活況にある。同工場に19年度に新設した新棟もフル活用し、21年は生産能力を年間1.4億個から1.7億個へ引き上げていく。さらに増強を要する折には、グループシナジーでKEMETの蘇州、メキシコなどの各工場活用も検討していく。トーキンとしても将来に備え、20年8月にこのタイ工場隣接地を取得した。アモイやベトナム工場もフル稼働だが、樹脂系などの部材不足の懸念が生じ始めている。
―― 車載系の製品群も強化されている印象です。
片倉 現状では金額ベースで民生50%、産業系35%、残りがその他の用途展開だが、ご指摘のとおり車載向けの製品群拡充を進めている。ACラインフィルターが電動コンプレッサーやオンボードチャージャーなど向けに需要が好調なため、21年度内にベトナム工場に3ライン増設し、合計10ラインの生産体制へ高める予定だ。22~23年度に向けたデザインインが進んでおり、既存顧客向けのカスタム品に加え、一般の多くの顧客向けに製品ラインアップを揃え、さらなる拡販を目指す。直近では使用温度上限を180℃に高めたメタルコンポジットパワーインダクター「MPEVシリーズ」、ADAS向け大容量・低ESRポリマーコンデンサー(T598シリーズ、FPUシリーズ)などを相次いで上市した。さらに国内で新製品開発も進めている。
―― 開発中の新製品とは。
片倉 MSA製品生産を担う白石事業所で、新規に車載向け昇圧用インダクターのラインを立ち上げ中であり、23年4月からの量産を計画している。また、20年に縦型タイプの提供を開始し、EV先行の欧州顧客向けに受注が好調な直流漏電電流センサー「FGシリーズ」で、横型タイプを21年末にリリース予定だ。さらに、ケーブルのEMI対策用にリール状に加工したノイズ抑制テープ「バスタレイド」を今後、車載向けにもカスタム展開する方向で検討している。車載グレードのスーパーキャパシターもこの夏リリース予定だ。
―― 車載以外の製品では。
片倉 コロナ禍に伴い、スーパーキャパシターが欧米顧客を中心に、医療機器用途向け出荷が急増した。人工呼吸器やECMO(体外式人工肺)などの医療機器の電源サブアラームシステムのバックアップ電源への搭載が進み、緊急出荷に対応した結果、20年の同キャパシターの出荷数量は前年の約18倍へと一気に増加した。また、産業系では積層圧電アクチュエーターがマスフローコントローラー向けでグローバルナンバー1のポジションを堅持している。ちなみに、トーキン全体の製品セグメント別売り上げはMSA5割、キャパシタ5割となっている。
―― 今後の展望をお聞かせ下さい。
片倉 グローバルニッチナンバー1を突き詰めていく方向性に変更はない。前述の新製品群の中にもニッチながら世界ナンバー1を獲得している製品群も多々ある。また、民生向けでの強みを維持しつつ、車載比率を高める路線もぶれずに進めていく。そして、ヤゲオグループとしての製品ミックス展開の強み、グループ各社の海外チャネル活用による拡販などの利点も活かしていきたい。
一方、社内的には社長就任から1年を振り返り、若手社員の自主的活動が目立ってきたことが嬉しい。新入社員との懇親や社内SNS立ち上げなど前向きに取り組んでいる。社員の個性を活かす経営が自身のモットーであり、まだ道半ばではあるが、「多様性は企業成長の原動力」である。素材を原点に、個性を結集してさらなる進化を目指していく。
(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2021年7月8日号16面 掲載)