電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第436回

「九州シリコンアイランド」の絶対価値はいまだに高いのだ


半導体産業関連の出荷額は1.5兆円、ICの国内シェアは43.7%占有

2021/6/11

 日本における半導体の一大量産拠点として名高い「九州シリコンアイランド」の始まりは、1967年の三菱電機の熊本工場進出であった。その後1969年には世界一の半導体メモリー工場とうたわれた九州日本電気(現在のルネサスセミコンダクタマニュファクチャリング熊本川尻工場)、1970年には東芝大分工場(現在のジャパンセミコンダクター大分事業所)が相次いで進出し、活況を呈していく。鹿児島県下には、家電大手のソニーが国分に初の量産工場を設け、ソニーのライバルである松下電器産業も拠点を築いていく。

 楽器で有名なヤマハも鹿児島に進出するが、これは現在、フェニテックセミコンダクターの主力工場になっている。ロームもまた福岡、甘木などに量産工場を設けていく。沖電気は宮崎に進出するが、これは現在のラピスセミコンダクタ宮崎としてロームグループの半導体生産の一角を担っている。外資系では、70年代に世界最大の半導体メーカーであったテキサス・インスツルメンツが大分県日出に新工場を設ける。旭化成は宮崎、鹿児島に量産工場を進出させる。

 まさに九州全域に雨あられの半導体工場進出となり、米国のシリコンバレーにあやかって、「九州シリコンアイランド」と呼ばれるようになるのであった。なぜに九州が半導体のメッカになっていったのか。それは何といっても「豊富な水」、そして労働力の集積がものを言ったのだ。

 今日にあって九州でひたすら量産工場を展開しているのが、ソニーである。2020年3月期には、キオクシア(旧東芝メモリ)を抜いて半導体日本一の座についたソニーの半導体生産を支えたのは、長崎、大分、熊本、鹿児島に立ち上がった優秀なる半導体工場群であった。

 ところが、かつて半導体の世界チャンピオンにまで輝いた日本電気が元気をなくしていく。松下、すなわち現在のパナソニックが2020年に至って半導体から完全撤退してしまう。そして東芝も、半導体量産の主役を大分から三重県四日市に移していく。こうしたことの重なりにより、「九州シリコンアイランド」の勢いもトーンダウンしていく時期があった。ところがどっこい、今日にあっても九州のIC(集積回路)の生産実績は、金額での国内シェア43.7%を占有し、過去最高の数値となっている。まさに蘇る九州のパワーと言って良いだろう。

 そしてまた、半導体デバイス産業だけではなく半導体関連産業、すなわち製造装置産業の集積も急ピッチで進んできた。九州エリアの半導体製造の生産金額は2013年度に1526億円であったものが、2019年度には4157億円となり、まさに右肩上がりで推移している。装置関連の全国比の九州が占めるシェアは15.5%まで来ており、かなりの存在感を見せ始めた。

九州シリコンアイランドの装置産業も急拡大(東京エレクトロン九州・熊本)
九州シリコンアイランドの装置産業も急拡大
(東京エレクトロン九州・熊本)
 コーター/デベロッパーという装置で世界シェアを占有する東京エレクトロン、マスフロコントローラーで断然の世界シェアを持つ堀場製作所、CMP装置で世界2位の荏原製作所はいずれも、九州・熊本に一大量産拠点を持っている。スパッタリング装置に強いアルバックは鹿児島、テスター大手のテラダインは熊本、ウエハーテストで定評のあるジェイデバイスは大分に生産拠点を構えている。

 すなわち「九州シリコンアイランド」は半導体デバイスと半導体製造装置という2つの刃を武器にこれからも戦っていくのだ。もちろんこの快進撃を支えていくのは、九州エリアのすべてに拡がっている協力企業群の存在である。キラ星のごとく輝く中小企業の底力が九州の本当の強さなのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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