化学メーカー大手の独メルクが半導体をはじめとする電子材料分野の強化を進めている。これまで同社の電子材料関連は液晶材料が主体であったが、近年はM&Aを活用して半導体材料の事業ポートフォリオを拡充。前工程プロセス材料はもとより、先端パッケージ材料も取り揃えるトータルサプライヤーに変貌を遂げている。2021年3月には、半導体やディスプレー材料をはじめとする事業セクターであった「パフォーマンスマテリアルズ」を「エレクトロニクス・ビジネス」に改称した。同セクターでCEOを務めるカイ・ベックマン(Kai Beckman)氏に事業概要や今後の方針を聞いた。
―― まずは、事業体制・売上規模を教えて下さい。
ベックマン 半導体やディスプレーなどの電子材料をカバーしているほか、自動車や各種コーティングなどに用いられる顔料ビジネスでも高い専門性を有している。電子材料分野ではデジタル化が進み、5Gやビッグデータ、自動運転やIoTなどの新しいアプリケーションによる拡大トレンドが明確であり、当社も成長機会を見出しているところだ。20年の売上高は前年比31%増の34億ユーロで、うち約90%を電子材料が占めている。
―― 現在の事業環境について。
ベックマン 半導体の長期的な成長トレンドは不変で、特に新型コロナの流行によってデジタル化がより一層進展している。エレクトロニクス市場は以前よりも景気の変動を受けにくい長期的成長分野になっているという理解だ。当社では18年に改革戦略を開始し、今後高い成長が見込まれるエレクトロニクス・ビジネスに照準をあわせて事業改革に取り組んできた。
―― 近年はM&Aにも力を入れています。
ベックマン 19年9月のインターモレキュラー、10月のヴェルサムマテリアルズの買収により、半導体およびディスプレー材料を包括的に扱うマーケットリーダーになったと自負している。半導体材料のポートフォリオはドーピング、リソグラフィー、パターニング、成膜、CMP関連、エッチング・洗浄など主要工程すべての製品を提供できる体制となっている。
―― 今後の事業見通しについて。
ベックマン 一連の戦略的投資により規模の拡大はもちろんのこと、製品やサービス、サプライチェーンの強化を図ることができた。半導体材料に関しては今後も安定して伸びると見ており、年率3~4%程度の売り上げ成長が見込める状況だ。
―― 開発投資ならびに生産体制は。
ベックマン 当セクターでは20年に2.74億ユーロをR&D部門に投資しており、特許保有数はおおよそ1.5万件に上る。日本を含むグローバル拠点で投資を続けており、21年4月には静岡事業所(掛川市)の製造および研究開発機能の強化を目的に、2000万ユーロの投資を発表した。
―― 静岡事業所が担う役割は。
ベックマン 静岡事業所は当社電子材料ビジネスの研究開発および製造ハブとして研究開発、品質管理、製造の各部門を設置している。主に半導体製造向けのパターニング材料、薄膜材料、ディスプレー向けフォトレジストを手がけており、また、QDPCC(量子ドットカラーピクセスコンバーター)などの次世代ディスプレー材料の研究も行っている。また、21年に開所した新施設であるセントラルオフィスは、静岡事業所内の全部門230人の共通オフィスとなっている。フリーアドレス制を採用し、部門横断型の社内共同研究および社外パートナーとの共同研究の場面で大きな役割を担ってくれるはずだ。
(聞き手・副編集長 稲葉雅巳)
(本紙2021年6月10日号10面 掲載)