電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第435回

パワー半導体はSiC、300mmが次のキーワード


SDGs加速の背景に各社が積極設備投資を構えている

2021/6/4

 「SDGsの動きが急加速している。再生可能エネルギーの導入促進をはじめ、様々なことが言われているが、やはりカギを握るのは半導体なのである。そしてまた、ここ数年のうちに石炭火力や石油火力を急速に減らすことは、現実的には難しい。こうなれば、電力を節約できる半導体、すなわちパワー半導体に焦点が集まるのは当然のことであろう」

 例によってにこやかに、そしてまた穏やかな視線でこう語るのは、半導体業界のトップアナリストと知られるM氏である。M氏は、あまり突出したことを言わない。しかしてM氏は、時々は鋭いことをサラッと言ってのける。さらに何よりも、女性たちにすごく人気がある(ここが筆者と決定的に違うところ)。

 それはともかく、巨大投資が続くデータセンターにおいても、フラッシュメモリーの活用やパワー半導体の導入がもはや待ったなしとなっている。EV、HVをはじめとするエコカーについても、パワーデバイスは搭載比率が2~3倍に急増すると言われている。太陽光発電や風力発電において必須なのはパワーコンディショナーであり、ここでもパワー半導体が活躍する。言ってみれば、パワー半導体こそが、SDGsのうねりの中で最重要デバイスの1つと言えるのである。

 2020年段階でのパワー半導体マーケットは、約2兆円と推定されている。しかして、今後は2~3倍になることが確実であり、4兆~5兆円の巨大市場が待っている。こうした情勢下で、世界のパワー半導体メーカーは積極的な設備投資計画を次々と打ち出し始めた。

 現段階で、パワー半導体売上高ランキングでトップをいくドイツのインフィニオンは、ひたすら300mmウエハーにこだわっている。ドレスデンの300mmラインを一気増強しており、オーストリアにも300mmウエハーの新工場を建設する。また同社は、SiCの量産にもかなり力を入れている。STマイクロは、EVの雄であるテスラにSiCパワー半導体を量産供給している。

 パワー半導体ランキング世界3位の三菱電機も積極策に出てきた。拠点のパワーデバイス製作所内に45億円を投じ、開発試作棟を新設することを決めた。延べ床面積は約1万m²で6階建て、稼働開始は2022年9月である。もっとも得意とするIGBTのさらなる新規開発、そして300mmウエハーの展開、SiCへの急速移行が最大の目的であろう。加えて、シャープ福山工場の一部を取得し、200億円をかけてパワー半導体の拠点を設けていく。

 パワーの世界ランク5位の富士電機は、2021年度にパワー半導体に対し、前年比2倍の410億円を投資する。そしてまた、SiCについても今後、増やしていく考えだ。同世界ランク6位の東芝も2023年度までに投資1000億円をアナウンスし、拠点の加賀東芝エレクトロニクスに300mmウエハーの新ライン構築を考えている。同世界ランク7位のルネサスも、将来に向けての積極プランを策定中である。

パワーデバイスの時代を変えると言われるSiCウエハー
パワーデバイスの時代を
変えると言われるSiCウエハー
 独自路線をいくロームは、5年間で4000億円を投じる中期経営計画を発表した。SiCをメーンとするパワー半導体や、車載LSIなどに集中投資する考えだ。

 こうした動きに対し、名アナリストのM氏は、少しだけ憂えた表情で、こうコメントするのだ。

 「パワー半導体は、日本勢のお家芸だった。しかし、将来を切り開くSiC量産、シリコン300mm化については欧州勢の後塵を拝している。さらに言えば、国家プロジェクトとしてパワー半導体の国産化を推進している中国勢の追い上げにも対応する必要がある。日本勢の技術は優れている。しかして、いつもいつもスピードがない」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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