「2021年の半導体設備投資は、前年比で20%以上伸びることは確実と見ている。装置各社は万歳三唱の時なのである。投資過剰という声もあるが、全くそうではない。とにかく、2030年までは第2スーパーサイクルの始まりで、半導体は空前の黄金時代に突入するのである」
声も高らかに、机を叩いて、手振りも大げさに、こう絶叫するのは、「スーパーサイクル男」として著名なアナリスト、野村證券の和田木哲哉氏である。筆者は、彼に対して「そんなことを言っていたらホラ吹きになるぞ」とたしなめたら、「同じく業界の絶叫男である泉谷さんには言われたくない」と返されてしまった。
ちなみに、設備投資過剰論について、筆者は和田木氏と同じく、バカな論評であると思っている。半導体業界の一種の常識として言えば、設備投資の割合が半導体生産額の20%以内にとどまっていれば、全く問題がないのである。歴史はそれを物語っている。
半導体市場が急上昇する時に、お調子に乗って生産額の4割、5割にあたる金額を投資につぎ込むことになれば、必ずしも言うところのシリコンサイクルの谷がやってくる。すなわち、天国を見た後で地獄というシリコンサイクルにより、業界は見るも無残に一気凋落していく。しかしながら、投資水準の割合を守っていけば、そういうことにはならない。
「2020年の半導体生産額は約50兆円であり、2021年の生産の伸びは10~15%くらいはもう完全に見えている。つまりは、55兆~57兆円くらいまで伸長してくる。しかして、2020年の設備投資は10兆円くらいであり、生産額に対する割合は20%くらいにとどまっている。2021年はそうした意味では2割くらい設備投資が伸びても、全く市況に問題はないと考えている」(和田木氏)
それにしても、和田木氏が吠えまくるとおり、半導体投資が絶好調であれば、製造装置各社の決算はとんでもない数字になってくる。東京エレクトロンの21年3月期の純利益は2429億円に達しており、なんと前期比31%増なのであり、純利益率も17%になっている。22年3月期については純利益率19%、純利益3300億円(43%増)の超強気予想となっているのだ。何しろ市場を独占するコーター&デベロッパーが好調に推移しているだけでなく、フラッシュメモリー向けのエッチャーも絶好調だ。洗浄も悪くない。
EUV時代に突入すれば、分析機器分野で市場を独占すると言われるレーザーテックは、21年6月期に純利益率23%、純利益140億円(前年比29%増)の予想を出している。キヤノンもまた、21年1~3月期は純利益445億円を上げ、なんと前期比103%増を記録した。ディスコも、21年3月期に純利益390億円(前期比41%増)という過去最高の数字を叩き出している。
それはともかく、和田木氏が「スーパーサイクル男」と呼ばれる所以は、3~4年ごとに好不況が繰り返されるシリコンサイクルはほぼ消滅した、と主張しているからである。そして、ずーっとスーパーサイクルが続くというあり得ないほどの強気予想をしているからだ。和田木氏は、向こう5年間は全く半導体のプラス成長は揺るぎがないという。そして30年までロングで好況期が続くとさえ言うのだ。
「SDGsの影響もあり、とにかくデーターセンターの電力消費を激減させなければならない。サーバーのニアラインについては、いまだにハードディスクが使われている。これがフラッシュメモリーに置き換われば、フラッシュのマーケットが倍増するのは間違いない。そしてまた、2028年以降には、DRAMの3D化が始まり、積層のためのエッチャーが急増する。フラッシュとDRAMのダブルパンチでエッチャーマーケットは急拡大していくのだ。ついにエッチャー祭りが始まっていくのである」(和田木氏)
通常の神経の人ならば、ここまで言い切るには多くの勇気がいるであろう。しかして、事もなげに、かつにこやかに、こう言い切ってしまう和田木氏は、すごいという他はない。ちなみに、17~18年にかけて起きた半導体装置業界の一大変事、リソグラフィーからエッチャーに主役が移るというドラマを見事に言い当てたのが、和田木哲哉氏なのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。