電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第433回

今や「半導体一人勝ち」の展開、しかして「半導体不足」は超深刻だ


自動車は全く予定どおり作れず、ゲーム、家電などにも影響

2021/5/21

 「これは一体どうしたことだ。大体が2020年はコロナ禍で世界経済が一気に減速し、半導体産業もマイナス成長が予想されていた。ところがどっこい、何と5%も伸びてしまった。そしてまた2021年については10~15%増は確実とみられており、世界半導体の総生産額は57兆円を超えてくるかもしれない」

半導体不足はインテルのCPUにも及んでいる
半導体不足はインテルのCPUにも及んでいる
 いつも頑張ることで有名なアナリストM氏の談話である。M氏は今や最古参の半導体アナリストとして知られており、『報道ステーション』などにもたびたび登場するお方である。同じく半導体業界で現役最古参のもの書きである筆者は、しょせんヤクザであるので、テレビなどからはお呼びもかからない。

 それはともかく、現状における半導体の牽引役は、何といってもデータセンターのサーバーであり、そしてテレワーク急増によるパソコンの好調ぶりも背景にある。この分野の半導体の売上高はおそらく20%近い伸びを示しており、20兆円くらいはあると思われる。長らく低迷していたスマホ向けの半導体は5Gモデルの増加もあり、少なくとも2021年は10%くらいは伸びるだろう。もともと現代の若者は巣ごもりが大好きであるが、新型コロナウイルス蔓延がこれに拍車をかけたこともあって、ゲームやタブレット向けの半導体は7~8%は伸びるとみられている。

 ところが、である。こうしたアプリケーション側の状況が活況であることに対して、肝心かなめの半導体の供給が間に合わない。米国のフォード社は、半導体不足から今年の第2四半期は自動車生産が50%も減るという実に悲観的な見通しを公表している。フォルクスワーゲンは自動車用半導体の大幅な不足を嘆いて、今や危機モードに入ってしまったと表明している。

 こうした状況下において5月11日、米国政府のレモンド商務長官は半導体不足に対応すべく、5月20日に業界幹部と会合を持つとアナウンスした。半導体のサプライチェーンをめぐる問題は極めて深刻だという判断なのである。

 米中貿易戦争の激化に伴い、米国政府は今後、米国本土に約20のメガファブ(投資額1兆円以上)を新設することを打ち出した。台湾のTSMC、韓国のサムスンなどの外国企業の誘致に加えて、インテルが2棟建設するなどの計画を引き出した。これは中国の半導体強化に対するリスクヘッジとして、米国国内に先端半導体工場を集めるという軍事・防衛的な見地からの施策になるわけであるが、一方で半導体のサプライチェーンを米国国内で完結させるという思惑もある。

 それはともかく、世界の自動車生産は昨年の8000万台から少なくとも15%増くらいには回復するとみられていたが、成長率は10%を切ってくるかもしれない。これに加えて、ルネサス那珂工場の火災や台湾TSMCの停電発生、さらには火災発生、そしてまた50年に一度ともいう干ばつで、圧倒的な水不足になっていることで、世界的な半導体生産のリスクが高まっている。こうなればEUであろうと米国であろうと、何とかして自国内または一定地域内のサプライチェーンを確立しようとするのは当たり前のことだ。

 半導体不足の与える影響は自動車だけではない。ソニーのゲーム機は絶好調で推移し、創業以来初の1兆円以上の利益を叩き出す牽引車となったが、この半導体不足には頭を抱えるばかりだ。昨年11月に発売したプレイステーション5の供給は逼迫した状況が続いている。とにもかくにも、半導体を筆頭に部品不足で作ることができないのだ。今のところプレイステーション5は2022年も部品不足で、十分な供給には数年かかると言われている。売るべき時期のチャンスを逃してしまうことにもなりかねない。

 さらに言えば、ディスプレードライバーICという半導体が超不足しており、これがためにテレビ、ラップトップパソコン、高機能家電、そして自動車などに必要不可欠な液晶パネルの供給不足やコスト上昇が巻き起こっている。こうした状況に対し、かの有名アナリストM氏はこうのたまっている。

 「自動車向け半導体の不足はあんまり心配しなくてよい。夏以降には落ち着くでしょう。TSMCのレガシー投資により、車載向け半導体の供給は何とかなるので、半導体を原因とする減産は最大でも200万台くらい、その他にも半導体不足でわあわあ言っている心ない記者が(筆者のこと)がいるけれども、2021年の世界全体の半導体設備投資は20%増になる予定である。供給するキャパは十分に用意できている。こうしたことをよく見たうえで判断できないジャーナリストは、もうどうにもならないですね」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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