商業施設新聞
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No.805

パンと、チキンと、海外料理


岡田光

2021/5/11

老舗ベーカリーの「グランディール」
老舗ベーカリーの「グランディール」
 どこかの店舗で見たことがあるようなタイトルであるが、この3つが、私がコロナ禍の取材を通して感じた外食業界の“新三種の神器”である。1世帯あたりのパンの支出額が、コメの支出額を上回っており、店舗が増え続けているベーカリーショップ、食パン専門店、ベーカリーカフェ。2008年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、20年の新型コロナウイルス流行と、経済危機の際は必ずと言って良いほどブームが訪れる唐揚げ専門店。そして、新型コロナウイルスの影響により、海外旅行に行く道が閉ざされたアウトバウンドに対し、現地に行ったかのような気分が味わえるアジアを含めた海外料理店。この新三種の神器が、コロナ禍で苦しむ外食業界に光明をもたらしていくのではないか。

 総務省が実施している家計調査によると、1世帯あたりの年間品目別支出金額で、コメは13年から減少傾向にあるのに対し、パン、食パン、他のパンは横ばいの年もあるものの、ほぼ増加の一途を辿っている。これは少子高齢化が進み、歯が弱い高齢者が増えたことと、共働き世帯の増加で女性を中心に、昼食用にパンの購入機会が増えたことの2つが要因だと筆者は考える。さらに、新型コロナウイルスの影響で中食需要が拡大し、持ち帰りも可能なパンを取り扱うベーカリーショップの存在感が急速に高まった。
 しかし、ベーカリーショップ業界では駅前や駅構内などの都心店が不振に陥り、かつ店舗間の競争が激化しており、優勝劣敗が鮮明となりつつある。加えて、食パン専門店が右肩上がりで店舗数を増やしており、ベーカリーカフェの新業態店も相次いでオープン。今後はパンの販売方法や、異業種とのコラボ店に注目が集まるだろう。

あべのハルカス近鉄本店内に開店した「食習」
あべのハルカス近鉄本店内に開店した「食習」
 チキンはやはり唐揚げ専門店が主役となる。筆者の地元にも「から揚げの天才」が開店したが、「からやま」や「から好し」など専門店が相次いでオープン。昼間だけでなく、夕方や夜遅くでも行列ができる店舗があり、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。また、韓国料理であるネネチキンの専門店も店舗数を増やしており、既存の「ケンタッキーフライドチキン」も含め、日本において唐揚げ専門店の国際競争が始まりつつある。個人的には、ワタミがから揚げの天才とともに展開しているカフェ「bb.qオリーブチキンカフェ」や、鳥貴族が今夏にオープンする予定のチキンバーガー専門店の成長に期待したい。

 そして、前述のベーカリーやチキン以上に、これから店舗数が増えるだろうと予感しているのが、アジアを含めた海外料理店だ。先般、近鉄百貨店があべのハルカス近鉄本店内に開業した台湾フロアを内覧したが、「神農生活」や「食習」は、台湾を知る人間には待ち遠しかった店舗である。高島屋も、今夏にイタリアンのデリカテッセンとレストランを融合した「リナストアズ」の日本1号店をオープンすると発表しており、海外料理店の導入は、百貨店を中心に今後も増えてくることが予想される。しかし、こうした海外料理店は食材の輸入が必須であるため、コロナ禍の現状では、なかなか思いどおりに食材が手に入らないという課題も生じてくる。その課題を克服するためには、1社単独で事業に取り組むのではなく、商社といった他業種とのコラボレーションが必要になるだろう。いずれにしても、新型コロナウイルスの第4波が到来し、待ったなしの改革が迫られている外食業界に、新三種の神器はどのような恩恵をもたらすのか。今夏以降に行う外食企業の次なる一手に注目したい。
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