2021年で創業から55周年を迎えるコネクター老舗のイリソ電子工業(株)(横浜市港北区新横浜2-13-8、Tel.045-478-3111)。4月から同社初となる生え抜きの代表取締役社長として、鈴木仁氏が就任した。鈴木氏は大学卒業後に同社へ入社して以来、技術一筋にキャリアを重ね、2000年から携わった車載関連では、独自技術による世界初の3次元フローティングBtoB(基板対基板)コネクター「Z-Move」を主力製品に育て上げた立役者でもある。社長就任前にはマーケティング、営業などの経験も経ている。鈴木新社長に抱負などを幅広く聞いた。
―― 新社長に就任されて。
鈴木 数年前から前社長の由木とともに長期ビジョンの作成にも携わってきた。そのため、目標として24年3月期売上高500億円の突破、その先に売上高1000億円の達成を見据えている。中計策定以降、各国でEVシフトの発表も相次ぐ。達成時期の前倒しも期待している。また、少し弱いと感じていた当社のマーケティング力などの強化にも22年あたりから着手していく。
―― 売上目標達成に向けた施策は。
鈴木 当社売上高の8割強を占める車載向けのニッチなところを固めながら、グローバルでのシェア獲得を目指す。すでに北米、EU、中国、ASEAN地域に営業拠点を展開している。今後は各営業拠点に日本社員の派遣や、ウェビナーを使用するなどして販売促進に力を入れていくつもりだ。車載の設計部隊が多い地域は特に強化していく。車載市場向けで販売強化を図るべき領域として、安全系、パワートレイン系、モーター、インフォテインメント、二輪に焦点を絞り、この5分野向け(PA25プロジェクト)を伸ばしていく。
―― 5分野に向けた具体的な製品事例は。
鈴木 たとえば、車載カメラからの画像伝送など、ADASや各種多機能車載機器での高速伝送対応が必須となってきている。そこで当社では、得意とする独自の「フローティング技術」と高速伝送対応を同時に実現する「16Gbps対応電源用端子付きフローティングBtoBコネクター『10143シリーズ』」を上市した。16Gbpsと±0.8mmの可動量を併せ持つBtoBコネクターは世界初であり、反響が大きい。
―― パワートレイン向けも伸長中です。
鈴木 あらゆる電動車のインバーター、コンバーター、オンボードチャージャーなどパワートレイン向けで小型化への要求が高まっている。当社には、ハイブリッド車のDC/DCコンバーター向けにトヨタ自動車様、豊田自動織機様とともに開発した3次元フローティングBtoBコネクター「Z-Move」があり、こうしたニーズに応えられる。海外では溶接、ワイヤーで接続する事例も多いが、今後は省スペース化の観点からZ-Moveの需要がさらに高まるとみている。
―― 車載以外について。
鈴木 5G基地局向けに25Gbps対応と、当社独自の強みである自動組立対応のAuto I-Lockを掛け合わせたFPC/FFCコネクター「11503シリーズ」を上市した。ロボットや5G基地局向けも強化していく。
―― 生産体制は。
鈴木 Z-Moveなど高品質・高信頼性を要する車載向けは現在、茨城工場で生産しているが、今期から規模的に大きなベトナム工場でも行う予定。各種コネクター製品の生産は引き続き中国の上海および南通、フィリピンの各拠点で行う。なかでも18年に竣工した南通工場は十分な余裕があり、売上高500億円までは対応できる見込み。
ただし、その先の売り上げ1000億円達成にはさらなる生産能力体制を要するとみて、メキシコに新工場建設用の用地を取得している。売上高500億円を超えた段階でメキシコ新工場着手を検討していく。なお、設備導入などの投資は今後も毎年継続して行っていく。
―― 2月のベトナムでのロックダウンの影響や市況感は。
鈴木 ロックダウンは1カ月に及んだが、その間、他工場での生産、在庫などでお客様に対応し、3月には完全稼働に戻った。また世界的に半導体不足が深刻だが、現時点で当社への影響は出ていない。ただし、2~3カ月後あたりから自動車減産などの影響が出始めることも予想され、注視していく。今後、自動車の電動化に伴い、さらに員数増に向かうとみている。
―― 今後の展望を。
鈴木 「イリソと言えばフローティング」が定着するよう、1000億円の売り上げ目標を達成するまではフローティングコネクターをコアに事業展開していく予定だ。一方、創業時から当社の文化として引き継がれている「感謝」することを今後も大切に守っていきたい。
(聞き手・高澤里美記者)
(本紙2021年5月6日号10面 掲載)