「京都大学から出たベンチャーだから、この地に思い入れがある。本社工場がある桂地区から亀岡・綾部地区に向かうエリアに新たな拠点を考えたい。そして、若き京都ベンチャーに声かけして、京都ディープテクノバレーを作りたい」
穏やかな顔で、しかしきっちりとした口調でこう語るのは、画期的なパワーデバイスを武器に、フロントステージに躍り出ようというカンパニーのFLOSFIA(京都市西京区御陵大原1-29)の代表取締役社長を務める人羅俊実氏である。同社はコランダム構造の酸化ガリウムに着目し、新たな製造プロセスも開発し、ローコストかつ超高機能で電力を節約できる半導体を製造する気鋭のベンチャーなのだ。
次世代パワーデバイスの本命とも言われるSiCに対して、オン抵抗を86%も削減し、高い移動度とノーマリーオフ動作を実現しており、国内外の注目を集めてきた。2019年のジャパンベンチャーアワードでは経済産業大臣賞を受賞。2020年はNEDOの省エネルギー技術開発賞を受賞。そして、電子デバイス産業新聞が選定する「半導体オブ・ザ・イヤー2020」においてもデバイス部門のグランプリに輝いている。
「20億円を投じて、本社工場の本格立ち上げに入っている。クリーンルームはクラス1000。2021年秋ごろには月産100万個体制を確立する。とにかく、一刻も早く量産できるステップに行きたい。実アプリで使っていただきたい。良さを分かってもらいたい」(人羅社長)
サファイア基板を採用するが、これまたSiCに対してコスト10分の1と有利であり、ミストCVD法を使うため真空ポンプが要らないなど、プロセス上でもコストを抑制できる。SiCと同一面積で大電流を流せる。何と1万Vもの高耐圧が期待できるという優れもののチップなのである。
「パワーデバイスの小型化が図れることを徹底アピールしていく。資金調達も順調に来ている。当面の売り上げ目標については、2030年で1000億円を打ち出している。もちろん、どこかのタイミングでIP O取得を考えたい」(人羅社長)
この酸化ガリウムパワーチップのロードマップとしては、民生から入り、産業機械、車載へと進めていくという。筆者が訪問した日は、図らずも同社の創立10周年記念日の3月31日であった。この10年を振り返っての感慨を伺ったところ、遠くを見つめるような視線で人羅社長はこうつぶやいた。
「10年は長いようで短かった。本音はもっと早く世に量産チップを出せると思っていた。しかし、ファブレスで考えていたのが、まさかの本社工場での自前生産になった。京都大学出身ベンチャーの誇りは常に胸にある。若きベンチャーたちが、後に続いてほしいと切に思う。そして京都ディープテクノバレー構想をいつの日にか実現したい」
いやあ、頑張れ!とエールを送りたい言葉ではないか。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。