カジュアルファッションチェーンを展開するアダストリアと、商業施設「新静岡セノバ」を運営する静鉄プロパティマネジメントは、働き方改革として「ささえあう 働く時間プロジェクト」を開始すると発表した。同プロジェクトの皮切りとして、新静岡セノバでは、5月1日から各ショップの集客に合った働き方を提案する「(1)営業時間フレックスタイム制度」「(2)パワーチャージ休暇制度」「(3)営業時間短縮」の3制度をトライアル実施する。商業施設でテナントごとの営業時間や休業日が異なるという取り組みは斬新で、画期的であると感じた。半面、そこまでアイドル時間が極端なテナントがあって、従業員の救済策が求められているのかと、SCの苦境をも感じた。
近年は、SDGsが採択されたことで、企業での働き方が注目されている。両社が加盟する日本ショッピングセンター協会では、SCで働く人々の満足度向上を掲げたES(従業員満足)宣言を出すなど、業界でも持続可能(サステナブル)な働き方が求められている。このような状況を受けて、アダストリアと静鉄プロパティマネジメントは、テナントとデベロッパーという両者の立場から商業施設の営業時間のあり方を見直し、ショップスタッフの働き方の無理・無駄をなくす試みとして、同プロジェクトを発足した。
新静岡セノバを運営する静鉄プロパティマネジメントの代表取締役社長の川井敏行氏(2021年4月から同社会長、静岡鉄道の代表取締役社長に就任)は、「商業施設には安心して働きやすい環境を整備することに加えて、魅力あるショップの出店や、人材が働きたくなる環境の提供が求められている。ショップスタッフのワークライフバランスを向上させることが、商業施設と周辺地域の活気にもつながると考えている」と語った。確かに、土日や祝日に休めなかったり、店を閉じた後の深夜でないと帰宅できない商業施設の従業員は気の毒だと思うことはよくある。この状況が緩和されることは、従業員にとって良いことであるし、魅力的な職業にもつながることだろう。
同プロジェクトで、新静岡セノバとして提案するのは、正月などの全館休館日に加えて各ショップが1年に2日休業日を設定できる「店舗別休業日」の導入。一方、アダストリアが提案するのは、「営業時間フレックスタイム制」で、営業時間に“コアタイム”を設定し、開店・閉店時間は各ショップの裁量で設定できるというもの。新静岡セノバのテナント全130店のうち、まず15店で開始し、従業員と客の双方の反応や評判を確かめる。店ごとに営業時間が異なるのは街中では通常のことであるので、従業員にとっては良いことなのだろうと思う。
左から静鉄PMの川井氏、アダストリアの福田氏、日本SC協会の飯嶋氏
記者会見では、SC内で店や業態ごとに営業時間が変わることに対して93.2%の一般の人が賛成、業態ごとに定休日が変わることには86.8%の一般の人が賛同したとのアンケート調査結果(20歳代~60歳代の全国の男女1560人へのインターネット調査、21年1月)も報告された。多くの人が、「SC内でそれぞれの店舗や業態にとって最適な営業時間が異なると思うから」「サービス業だけが土日曜日に休めないという体制が何年も変わらないのは時代遅れだと思うから」と、商業施設の働き方改革に前向きに理解を示す声が多かったという。新静岡セノバは、この商業施設初の働き方改革を静岡から全国に発信すると意気込む。日本ショッピングセンター協会理事の飯嶋薫氏も記者会見に参加し「取り組みに対して良い意味でショックを受けている。応援したい」と後押しした。
アダストリアの代表取締役会長兼社長の福田三千男氏は「ショップスタッフは、働くと同時にその地域で暮らすお客様でもある。無理や無駄をなくし、持続可能な仕組みを実現することは社会的な要請である。企業の垣根を越え、業界全体のサステナビリティにつながる取り組みになると期待している」とプロジェクトを引っ張る。
商業施設新聞の記者である私も、この働き方改革に賛同したい。静岡から全国のSCに波及し、商業施設の従業員が無駄な時間の束縛から解放され、仕事への満足度が高まることを切に願う。