電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第41回

半導体景気はようやくにして小さな春を迎えたのか


~DRAM市場は30%増、台湾ナンヤは13四半期ぶり黒字化~

2013/5/10

 「ソフトバンクの8期連続の最高益はまさにサプライズだ。2013年3月期は連結営業利益が7500億円で、前期比11%増の過去最高を記録した。アイフォンなどスマートフォンがいかに時代の寵児であるかを象徴する出来事であるといっていいだろう」

 筆者が親しくする著名な証券アナリストの一言である。このソフトバンクの利益規模は、すでに自動車大手の優良企業ホンダを上回っており、国内利益ランキング上位10社に入ったことは間違いないとみられるのだ。売上高は6%増の3兆4000億円となり、米携帯大手のスプリント・ネクステルの買収も計画するなど、ソフトバンクの動きからは今後も目を離せないだろう。

 ところで、ソフトバンクばかりが話題を集める昨今にあって、NTTドコモ、KDDIもまた積極的な設備投資に踏み切っていることにも注目したい。何しろこれら携帯3社の設備投資は、2010年度以降ひたすら増え続け、2012年度はおそらく2兆円近くを実行したと見られている。2013年度は少し減速するものの、現時点では1兆7000億円を投入することは確実と見られており、かつての半導体産業や鉄鋼産業に代わって、設備投資の主役の一角にのし上がったといってよいだろう。その理由はなんといっても画像、音楽など通信量が従来の携帯電話より格段に多いスマートフォンが急速に普及し、大容量の高速通信ネットワークを拡充する必要があるためだ。日本にしてこうであるのだから、米国、中国、ロシアなど世界全エリアでこうした高速通信がらみの設備投資拡大は経済効果となって跳ね返ってくるだろう。

 さて、IT産業全体が成熟化する中にあって、スマートフォンの爆発的増大はまさにサプライズといってよいだろう。昨年の世界出荷台数は少なくとも6億5000万台に達したと見られており、2013年は8億5000万台から9億台まで拡大するとの見方が強い。「スマホ一本足打法」のITの状況を懸念する声が多いが、まずは勝ち馬に乗れ、というのが半導体をはじめとするエレクトロニクス企業の現在における常套戦法になっているのだ。

 勢いのなくなったパソコン向けから撤退し、スマートフォン向けなどの生産に特化するナンヤは台湾のDRAM最大手。なんと、先ごろ13四半期ぶりの最終黒字化となり、この出来事が半導体に小さな春が訪れたことを象徴するといっていいだろう。DRAMは供給過剰が続き、エレクトロニクス市況の低迷もあって長く価格が低迷した。しかしながら、2013年第1四半期は市場の平均単価が前期比で約3割も上昇したのだ。2G DRAM(DDR3)は120円前後の価格で安定し始め、かつ価格もさらに上昇気味だ。

 「2013年のDRAM市場は30%増が期待されている。一方で供給サイドは15%程度の生産能力の増大にとどまる。このため、需給バランスは非常に良く、利益は確保しやすい状況だ」
 こう語るのはナンヤの日本法人のトップである王緒揚氏である。同氏によれば、2013年は特にDDR3の4Gビット品に注力し、タブレット、スマホに多く出荷が伸ばせそうだという。また、モバイル端末向けが増えていることから、30nmスタック技術を投入し、設備投資も前年比3倍以上の71億台湾ドルを計画するという積極姿勢を見せている。

 同じく台湾に拠点を構えるシリコンファンドリー最大手のTSMCは、2013年の設備投資をここに来て上方修正した。20nm、および16nm世代の立ち上げを加速するため、年初計画の90億USドルから100億USドルに引き上げるというものだ。世界におけるファブレス企業の拡大もあって、TSMCはわが世の春を迎えている。ノーブランドの生産受託企業が、何と日本円でいえば約1兆円の半導体設備投資を実行するというのだから、時代は大きく歯車の音を立てて回り始めた。

 それにしてもニッポン半導体の元気のなさはなんとしたことだろう。大手の富士通はついにマイコンとアナログの設計・開発部門を、米国半導体メーカーのスパンションに売却すると発表したのだ。筆者は1977年に半導体記者としてデビューし、富士通がASICの代表格であるゲートアレイで世界トップを独走し、岩手新工場を立ち上げたころを良く覚えている。なにしろ、当時の小林大祐社長が退陣する際に「半導体は良く儲けてくれた。実にありがたかった」という一言を残しているのだ。

 栄光ある富士通半導体を立ち上げていった戦士たちは、たった170億円でスパンションへマイコンとアナログの開発を叩き売る現在の富士通の姿を見て、いま何を考えているのだろうか。



泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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