電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第39回

久留米出身の爆裂男は、自社ブランドの医療機器を展開し100億円狙う


~(株)バイオクロマトの木下一真社長は「スペックで勝負しない」方針~

2013/4/19

 福岡県の久留米・八女エリアは、爆裂する人材を生み出すことで知られている。東芝の創業者である“からくり屋儀右衛門”こと田中久重の出身地であり、ブリヂストンの創業家もここで生まれた。いまや時代の寵児となっているソフトバンクの孫正義氏もまたこのエリアの出身であり、永遠のアイドルである松田聖子ちゃんもここから出発し、爆裂していったのだ。

(株)バイオクロマト 代表取締役 木下一真氏
(株)バイオクロマト 代表取締役 木下一真氏
 (株)バイオクロマト(神奈川県藤沢市本町1-12-19、Tel.0466-23-8382)の木下一真社長もまたこの爆裂ゾーンに生を受けた人なのだ。木下氏のひいおじさんは大正時代に商売で大成功をおさめ、それをおじいさんが引き継ぎ、木下氏の父の幼少時代は非常に裕福な生活をしていたという。ところが、木下氏のおじさんがその財産を使い切ってしまい、木下氏の父は藤沢に泣く泣く出て来て、大変苦労を重ね1983年に35歳で独立し、(株)バイオクロマトを創ったのだ。

 「何しろ爆裂男の気風を引く父親なので、90年代には一気に半導体に手を出した。CMP(化学的機械的研磨)装置のバルブやフッ素系のチューブを扱い、成功をおさめた。そして、九州シリコンアイランドに工場を持ちたいと考え、久留米に拠点を設ける。これぞ、故郷に錦を飾るという出来事であった」

 さて、こうした爆裂男の系譜を引き継いでいる木下一真社長は、ここに来て壮大な将来ビジネスの構図を描き始めた。現状の事業は20~30%がCMP関連、30%が理化学機器の仕入れ販売、そして40%が自社ブランドの製品だ。この自社製品は質量分析計であり、いってみれば物の重さを正確に測るというものだ。

 一般に液体状のものであれば、成分を分けて測らなければならない。ところが、バイオクロマトの技術は、成分を分けないで測れるという優れものなのだ。つまりは、熱分解し分離生成することで、プラスチックやクリスタル、化粧品・医薬品などの各種容器などの高分子素材を正確に分析してしまうのだ。この製品はダイレクト・アナリシス・リアルタイム・マススペクトルと命名されたが、この分野の権威である山梨大学の志田保夫教授の指導を得て、資生堂リサーチセンターとの共同開発で作り上げた。

 「基本的には知財権ビジネスで行きたい。量産はあくまでもアウトソーシングで考える。ただしリサーチセンターはいずれどこかに作りたい。また、この技術を海外に出す気は一切ない。ニッポンのモノづくりを守っていく」(木下社長)

 バイオクロマトの将来像としては、質量分析の技術を横展開し、自社ブランドの医療機器を世に出していきたい、とのことだ。これまでの仕事で培った多くの販売代理店網があり、海外販売についてはアメリカ、ノルウェー、シンガポール、ニュージーランドに代理店ネットワークを築いている。医薬メーカー、ヘルスケア企業と共同開発し、マーケットインしていく。2015年までの売上目標は10億円、中長期的には100億円の大台を狙っていく考えだ。しかして、IPOをとる気はない、とも言う。
 「自分の方針は、スペックで勝負しない。早いスピードはいらない。高品質はいらない。とにもかくにも、ユーザーの悩み、心配を解決する技術を目指す」(木下社長)

 木下社長によれば、購買意欲は意外と感性によるのだと指摘する。大体にして人間は「思考」「感情」「行動」で動く。どうしても嫌いだというものは、何をやっても売れない。通ってくる営業マンの顔がいやなら売れない。正しいマーケティングは、何といっても購買意欲を見つけてあげることに尽きるのだと主張する。

 いまどきの若者たちを見ていて、どういう感想を持ちますかという質問に対し、この爆裂男の気風を引き継ぐ木下社長は明確にこう答えた。

 「いまどきの若者が保守的で、リスクをとらないのは、育った環境の影響が大きい。子供の頃から障害物を取り除かれ、純粋培養された若者たちが、リスクをとらないのは当たり前だ。そしてまた、自分で考えるという思考回路が失われている。人生の目的を達成するためには必ず障害が必要であり、その先に限りない自由が待っている。私の夢は自分の事業を通して若者たちにエデュケーションを施すことだ。高潔であれ。プライドを持て。大きな障害に挑め。その先にある楽園を満喫しろ。こう言い続けていきたい」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索