電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第423回

「令和バブル」30年半ぶりの高株価から視えてくるもの


アドバンテスト、TDKなど電子デバイス株を日銀がいっぱい買っている

2021/3/5

 筆者は万年筆派である。400字詰め原稿用紙に万年筆で書きまくっていなければ、モノを書いた気がしない。たまにパソコン入力することもあるが、どういうわけかディスプレイを見つめていると、発想力も企画力も、はたまた文章力も出てこないのだ。

筆者の自宅の書斎にはパイロットの万年筆とタバコがいっぱい
筆者の自宅の書斎には
パイロットの万年筆とタバコがいっぱい
 若いころにボーナスをはたいて買った万年筆がモンブランである。当時としては目が飛び出るような価格であったが、この書き心地の良さには正直言って驚いた。そしてもっと驚かされたのは、毎日のように使い続け、十数年経っても書き心地も変わらなかったし、故障もしなかった。これが名器というものである(最近は愛国心も芽生えて、パイロットの万年筆を愛用しているが…)。

 1989年12月のことである。そのモンブランを手にしてひたすら興奮して書いた記事が手元に残っている。その見出しは次のようなものである。

 「日経平均株価はついに4万円に迫る勢い~国内半導体企業の世界シェアも50%を突破し、ぶっちぎり圧勝」。振り返ってみれば、89年12月29日に付けた株価3万8915円が史上最高値になった。それから30年半が経過した。そして、今年2月15日に3万円を突破し、バブル崩壊以来の最高値を付けた。最近では「令和バブルの到来」とまで言われている。

 世界すべてがコロナ禍の中にあって、米国の株価はひたすら上昇しており、この影響を強く受ける日本株が急上昇するのは当たり前だという株式アナリストは多い。それにしても、である。コロナが蔓延し始めた約1年前の20年3月19日には、コロナショックに打ちのめされるかたちで、日経平均株価は1万6552円まで下がった。なんと驚くべきことに、それから1年も経たないというのに、株価はほぼ2倍に上がるという狂乱ぶりなのである。

 この状況に対し、様々な評価が出されている。「低金利政策で、資金の株式市場への流入が増えた」「絶好調の米国のIT企業に部品や材料を納める日本企業は数多い」「新型コロナ対策で緊急追加の金融緩和が行われ、日銀の株買い上げは年間6兆円から12兆円に倍増」

 こうした様々な声があるのであるが、今や半導体業界アナリストとしてトップと言われる南川明氏はかなりつまらなそうに、しかしてお得意の笑顔を浮かべながらこうつぶやいていた。

 「要するに金余りなんですよ。世界すべてで金余りであり、これの向かうところがない。アップルやアマゾン、グーグルなどは、キャッシュフローの問題もあって、金を使わなければならない。ひらすら、巨大なデータセンターの建設に走り回る。データセンターのコストの約3分の1は半導体であるからして、半導体関連株が上がる。もちろん、電子部品の株もよい」

 そういえば、日銀が大株主の企業ランキングを見れば、すさまじく偏っていることがよく分かる。この第1位は半導体テスター世界一のアドバンテストなのだ。第2位はユニクロを運営するファーストリテイリングであるが、第3位は電源、リチウムイオン電池で大活躍するTDK、第4位は積層セラミックコンデンサーで上位の太陽誘電となっている。第7位の日産化学にしても、第10位の日東電工にしても、買われる理由はやはり電子デバイス関連の材料が好調であるからだ。

 なんのことはない。30年以上前のバブル時においても、半導体企業が強烈に日本経済を引っ張っていた。そして今「令和バブル」の時代にあっても、半導体をはじめとする電子デバイス関連の株が市場を牽引する。「あー。うたてしやな」と驚きながら、パイロット万年筆で、テレワークの在宅勤務の机の上で、この原稿を書きなぐっているのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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