「2020年の半導体市場は、実のところマイナス予想であった。加えて、コロナ禍が直撃することで、ますます先行きが不安視されていた。ところがどっこい、終わってみれば2020年は前年比5%成長を遂げてしまった。再び50兆円の巨大市場に舞い戻ったわけである。PCもタブレットもテレビもよかった。そして何よりも、データセンター向けの投資がこれに加わったことで、予想を裏切る良い数字をはじき出した」
少し年はとったけれど、相変わらずイケメンの名物アナリスト、南川明氏は、はっきりとこうコメントした。南川氏はいまや超売れっ子であり、引く手あまたの講演依頼が殺到しているようだ。ニュース番組『報道ステーション』にもたびたび登場している。当社が主催する茨城県のセミナー(2月26日)でもオンラインで講演されるが、数百人が視聴するという人気ぶりである。誰もが「半導体の先行きを知りたい」と熱望しており、南川氏の正確かつ鋭い分析をみな知りたいのである。
これに比べれば、筆者の分析はいつもひたすらに大げさ過ぎる、とのそしりを免れない。これは別にいいのである。分かっていて、言っているのである。南川氏の素晴らしい分析を聞いたうえで、筆者の暴言/放言を聞けば、「なんとあいつは馬鹿な奴だ。しかして超おもしろい」という何とも言えない評価をいただくのである。
南川氏は、2021年の半導体市場について超強気な予想をされている。現段階では前年比10%は確実に伸びるとしており、過去最大の55兆円マーケットが予測される、というから驚きである。さらに加えて、データセンター投資が2020年より上ぶれすることは間違いなく、かつ車載向けも戻ってくることから、場合によっては10%をさらに2~3%上回る成長を果たすかもしれない、とも言っていた。
こうした話を2人で1時間もしていたわけだが、実のところ、筆者も南川氏も明るい顔ではあったが、ひたすらため息をついていた。なぜならば、「新たな半導体の時代の始まり」がこう急速にやってくるとは思っていなかったからだ。
おそらくは、この数年間にわたって、半導体が爆裂的成長を遂げていくことは間違いないだろう。SDGs問題の克服にしても、5G革命の推進にしても、はたまた農業や食品産業の革新にしても、次世代自動車の革新にしても、すべては半導体がキーワードになる。まさに史上空前の半導体の時代がやってきたと言える。
「半導体設備投資についても、さらに急加速している。2020年は8兆~9兆円が投入され、過去最大の規模となったが、2021年はなんと前年比15%増という巨大投資が実行される。つまり10兆円を超えてくるのだ。装置メーカーさんも材料メーカーさんも、フル稼働に追われていくのは必至だろう」
こう言って、再びため息をつく南川明氏であった。確かに、自動車向け半導体が逼迫していることは大問題となっている。そしてまた、これが影響して電子部品やプリント配線板も供給がままならない状況が出てきている。電子デバイス全体が大活況に突入していくのである。
米中貿易戦争が激化するばかりであるが、中国の投資計画はいまだストップがかからない。それどころか、中国政府は2020年から5年間で100兆円を投資し、新型社会のインフラ投資で欧米を引き離す、と明言している。一部には、170兆円の投資に拡大、という報道もある。5G通信基地局、データセンター、AI、工業用IoT、新エネ車の充電設備、鉄道、超高圧送電網などのインフラを一気に整備しようというのだ。これらは皆、スマートシティーの構成要素であり、こうなると世界経済のリード役は米国から中国に移っていくことを否定できない状況だ。
「米国も、中国の巨大投資、さらには巨大消費を全く無視できないと考えている。確かに中国に対抗すべく、米国政府は半導体産業に5兆円の巨大投資を実行することを決めた。しかして、中国の半導体設備投資は決して減速しないだろう。これは国家戦略であり、軍事戦略であり、なおかつ経済戦略であり、この中核を担うのが半導体と考えているわけだから、もうどうにも止まらない、という情勢が続いていくのだ」(南川氏)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。