電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第388回

各国エコカー加速で高まる「eAxle」需要


半導体、電子部品もコスト低減、技術革新の要

2021/2/12

 2020年9月末、世界最大のCO2排出国である中国が、2060年までにCO2排出量をゼロとするカーボンニュートラル宣言を発したことで、世界各国に衝撃が走った。明確な環境対策宣言に慎重姿勢を見せていた日本も、ついに20年10月後半には2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにすることを明言した。当初から欧州を中心に世界各国で2050~2060年に向けた排出ガスゼロ宣言が発せられ、環境意識は高まり続けていたが、中国がこの流れに追随したことで、世界が一気に動き出したのだ。

 各国の目標を実現するうえでカギを握るのが、環境対応車(エコカー)の普及促進だ。2018年度国土交通省発表の統計資料によれば、日本のCO2総排出量のうち、自動車は15.9%を占める。欧州では世界に先駆け、2021年から自動車向けの排出ガス規制「CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency規制)」が本格的に施行されるため、エコカーの普及が待ったなしの状況にある。

 世界各国からも続々とエコカー関連の目標が相次いでいる。中国は2035年をめどに新車販売をすべて環境対応車とし、このうち50%をEV(PHV含む)に、50%をHVとする方針を公表。日本も2030年代半ばまでにすべての新車を電動車にする目標を掲げる。

 当初から環境意識の高い欧州では、英国が2030年からガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止することに加え、2035年にはHVの新車販売も禁止する方針を明らかにした。ノルウェーは2025年からPHV、HVを含むガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を打ち出している。

 その他、ドイツ、オランダ、スウェーデンなどの欧州諸国も2030年から、フランスやスペインも2040年から同様の方針を明確にしている。米国では環境対策に積極的なカリフォルニア州も2035年からPHVとHVを含んだガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を早くから公表している。

 こうした流れは、自動車メーカー各社のエコカー戦略に直結する。欧州自動車メーカー各社はEV化を推進中であることは周知のとおりであるが、直近の2021年1月末には米国のゼネラルモーターズ(GM)も2035年までにHVを含むガソリン・ディーゼル車の生産・販売をやめ、EVなどのエコカーにシフトする目標を打ち出した。日本ではトヨタ自動車が2025年に電動車550万台を以前から目標に掲げていたが、2021年1月末には日産自動車も2030年代早期に主要市場向けの新型車を電動化することを明言するなど、各社のエコカー戦略は一気に熱を帯びてきた。

テスラを筆頭に新規参入組が相次ぐEV
テスラを筆頭に
新規参入組が相次ぐEV
 一方、テスラ、アップルなど従来は自動車と無縁であった新規参入組が従来の自動車業界の固定観念に縛られない新境地を切り拓くべく、情報端末同様にコアは自社で握りつつ、製造は水平分業型の外部委託をベースとする発想で自動車業界に切り込んでくるなど、まさに100年に一度の大変革期が現実のものとなってきつつある。さらに足元では米GMの中国合弁メーカーである上汽通用五菱汽車製超小型EV「宏光MINI」が、約45万円という破格の安さで中国国内シェアを高めており、中国ではテスラの販売台数を抜く勢いだと話題になっている。ちょっと瞬きをしている間に激変するほどのスピード感でエコカー市場は変貌し続けている。

エンジン主体からモーター/バッテリー主体へ

 自動車製造という観点から見た場合、大きな変化の1つとなるのは、エンジン主体のガソリン車(内燃車)から、モーター、バッテリーを主体とした電動車へと、構造そのものが大きくシフトすることだ。これにより、ガソリン車で約3万点を要していた部品が、1万~2万点程度で済むと見られており、なかにはパソコン同様にリアルタイムにソフトウエアアップデートを行う「走る情報端末」に変貌していく、と見る向きもある。駆動システムもエンジン駆動システムから、モーターを用いた駆動システムへとシフトし、小型化、安価に搭載することが求められてくる。

 それを実現する筆頭格の1つがモーター、インバーター、減速機(ギヤ)を一体化した機電一体型の「eAxle(イーアクスル)」だ。富士経済の調べ(2020年10月電子デバイス産業新聞取材時点)によれば、eAxle(電動アクスル)世界市場規模は19年の約5万台から35年には1467万台まで拡大すると見込まれている。モーター、インバーター、減速機などを強みとする各社や大手ティア1各社が開発、市場投入の動きを加速させており、中国参入組を除けば開発中も含め主要参入メーカーは、電子デバイス産業新聞が把握しているだけでも14~15社程度に上る。

 こうしたeAxleの実態に迫るべく、電子デバイス産業新聞では20年11月上旬~21年1月中旬にかけ、「機電一体eアクスル~現在地と未来~」という連載企画を通じて、eAxleを供給する主要メーカー各社、および同市場を十年以上にわたりウオッチし続けている富士経済のアナリストを順次取材し、紙面で紹介させていただいた。ご協力いただいた各社関係者の皆様に感謝申し上げたい。この連載から、市場、技術、課題、今後の方向性など様々な実態が浮かび上がってきた。

欧州、中国のEV向けにeAxle需要活況

 まず市場という側面では、eAxleは現状ではEV向けに採用が進んでおり、必然的にEVの普及・伸長が旺盛な中国、欧州での伸びが顕著となっているようだ。中国ではEVの新車投入スピードが速く、欧州や日本に比べて半分、つまり1年半程度だという。

 そのため、モーター、インバーター、減速機を個別にチューニングする手間をかけず、完成品を搭載すれば動くという手軽さと低コスト感がeAxleに求められている。中国ではEVメーカーが400社以上存在するとも言われており、それらの大半は自動車生産への新規参入組とみられる。こうしたEV各社は安価で高品質なeAxleを手ぐすねを引いて待っている。

 一方、すでに自動車市場が形成されている日本を含む先進国では、車両全体の設計開発・製造に至るまで、自動車メーカーのグループ会社で完結していることが多く、eAxleを外部購入して組み込む、という事例は現状ではほぼ見られない。しかし、トヨタ自動車があらゆるモノやサービスがつながるモビリティ―社会の実現に向けて、静岡県裾野市に「ウーブン・シティ(Woven City)」プロジェクトを立ち上げていることが物語るように、主眼はハードからサービスへと軸足がシフトしつつあるようにも見える。

 もちろん、人の命に直結する自動車ゆえ、グループ会社一丸でハードとソフトを融合し、モノづくりでもリードし続けていくことは確実だが、将来的には現状よりもフレキシブルな製造体系にシフトしていく可能性があるようにも思える。

 同連載企画の取材の過程で、先進国各国のエコカーにおいては客観的立場で十年以上にわたりEV市場を追い続けている富士経済のアナリストの見方では、将来的にはeAxleは車格Cセグメント以下での採用が主流になるとの意見も聞かれた。EVでは2次電池の搭載スペース確保が必須となり、乗員に広い車内空間を提供する必要がある。そうした観点からも、小型・軽量化したeAxle搭載の利点がある。一方、Dセグメント以上、および高級車などでは味付け重視になることが想定され、必ずしも機電一体型のeAxleをそのまま搭載という流れにはならない可能性もあるとの見立てだ。

 ちなみに、大手ティア1からは、eAxleの搭載箇所に関し、「EVでは前輪に、PHVでは後輪に搭載する手法が一般的」とのご教示もいただいた。

eAxleの方向性・見方は様々

中国へ量産出荷中の日本電産製「E-Axle Ni150Ex」(日本電産ニュースリリースより)
中国へ量産出荷中の日本電産製「E-Axle Ni150Ex」
(日本電産ニュースリリースより)
 また、従来自動車メーカーと一心同体で歩んでいるティア1陣営と、EVを契機にモーターやeAxleで新たな風を自動車業界に吹き込もうとしている陣営で、今後の方向性の見方も様々であることも伝わってきた。eAxleのピーク出力150kW品を中国市場に投入し、eAxle採用車種の販売台数累計が10万台に達している日本電産は、「2030年にEV市場の40~45%シェアを獲得した場合、1000万台規模が見込まれる」と規模のメリットを強力に見据える。

 一方、大手ティア1陣営からは、「中国や欧州ではEVの伸長がクローズアップされる風潮にあるが、実際には世の中がどの方向性にシフトしていくのか不透明だと思っている。(中略)現時点で見えている技術だけでいえば、EVだけに頼るのは合理的ではない」との見方が様々な根拠とともに語られた。2次電池のコスト、急速充電器の普及事情、高い経済効率でCO2を下げる手段という見方、ガソリン給油時間と急速充電器による充電時間の乖離、急速充電器設置の側面から見た各国の住宅事情、その他様々な考慮事項など、あらゆる角度からの考察も視野に入れる必要があるという総合的俯瞰を通じた意見なども聞かれた。

 あらゆるニーズに対応する欧州ティア1メーカーからは、中国EV向けには搭載すればすぐに機能するフルインテグレーション品、車両デザインに合わせて自動車メーカーが最終を担う場合向けの個別モジュール品(中身のみ提供)、システム全体を網羅し車体まで含めた開発まで一貫で担うケースなど、いかなる角度のeAxleへの要求にも対応できる準備を着々と進めている様子がうかがわれた。自動車向けの幅広い知見と技術的蓄積を要する展開になってきていることがわかる。

 事実、電子デバイス産業新聞が取材した時点では、各ティア1メーカーはこうした実態に対応できるよう、中国でニーズの高い定格出力150kWのeAxle品を製品化しつつ、車体全体での省スペース化に向けた配置ができるように、必ずしも機電一体型での配置にこだわらず、車両全体設計の中で最適配置することで効率を追求するeAxle、最終的には車体全体まで見据えたOEM展開の未来図など、様々な準備が同時進行で進んでいる力強さを感じた。

 なお、eAxleを手がける各社の取材を通じ、起点となる各社強みの技術があり、足りないパーツは必要に応じ買収で内製化に取り込んでいく戦略であることも感じた。起点がモーターなのか、インバーターなのか、減速機なのか。そこから足りないパーツを買収で内製化し、設計・開発の柔軟性を高め、低コスト化や市場投入スピードの迅速化を徹底的に追求していく。市場規模が今後さらに拡大してくれば、こうした内製化がさらに進むのかが注目される。


「コスト」低減も課題の1つ

 一方で、コストは課題の1つだ。この点について触れた際、半導体や電子部品メーカー各社に関連するコメントがいくつか聞かれた。そのうちの1つは、モーターのマグネット価格。このマグネット価格が高額であり、材料費がネックとなっているようだ。また、インバーターにおける半導体やその駆動回路、キャパシタなどの機能部品価格も現状では高額であるといい、低コスト化に向けた改善余地を模索中だという。

 この半導体については、eAxle用インバーターに搭載されるパワー半導体はIGBTが現状の主流であり、この半数以上を欧州大手が供給しているが、調達コストがモーター用のマグネットよりも高額だ、との声も聞かれた。また、電子部品ではインバーター用コンデンサーも大型・高額だといい、低コストが求められているようだ。このコンデンサーの大型・高額の背景には、大電流化により熱を持つため、冷却向けの水冷を要するという事情があるもよう。

 ちなみに、日本電産の永守会長は「EVの車全体の平均価格は5分の1くらいになっていく」との見方を示唆している。その実現に、半導体、電子部品の貢献も大きく寄与することになるだろう。

近い将来、各社SiCシフト見据える

 技術面では大電流化・高耐圧化に対応すべく、インバーター搭載のパワーデバイスをシリコンベースのIGBTから、近い将来にSiCシフトを見据えるメーカーが大半だった。そのためのSiC確保手法として、すでにグループ内で内製化しているメーカー、SiC専業メーカーと提携して開発を進行中のメーカー、SiC技術を要するメーカーを買収して内製化を確立したメーカー、SiCでの提携先を模索しているメーカー、規模のメリットが見えた段階で買収などによる内製化を見据えるメーカーなど、各社各様の方法で挑もうとしている様子が伝わってきた。

 小型電動車両用eAxleを手がけるメーカーからは、具体的にモーター内のコイル構造に関する発言も聞かれた。eAxle向けモーターでは、コイルを太くする必要があるが、元の外郭を変えることなく決められたスペースの中に高密度で巻線を行う高度な巻線技術を要するという。たとえば、48Vの低電圧ながら8kW級の出力を要する、などがあるようだ。また、磁石を入れるローター形状、コイルに電流が流れる際に発生する熱を逃がしやすくするモールド技術など、様々なハードルを克服する必要があるという。

 ギヤを得意とする陣営からは、電動モーターから発生するノイズは内燃機関エンジンに比べて小さく、それに対するノイズ対策が必須であり、ここもノウハウの塊となっているようだ。

 このように、電動車種類の方向性も含め、eAxleは模索と進化の真っただ中にある。そして、OTA(Over the Air)でソフトウエアの随時更新を可能にするEVで市場を席捲するテスラなど新興勢力の存在、最近ささやかれるアップルのEV参入への動き、大手ティア1が描く統合化の方向性、はたまた45万円という破格の安さを武器に中国で躍進する上汽通用五菱汽車など、電動車を取り巻くマクロ環境も大きく変化している。

 こうした電動車の駆動を担う基幹となるeAxleの性能は、パソコンやスマホと異なり人命に直結する。小型・軽量化、省エネ化、低コスト化を図りつつも、誤動作・欠陥なき高品質・高性能・長寿命・堅牢性を実現する半導体、電子部品が求められる。半導体メーカー、電子部品メーカーもこうした進化の過程を自動車関連メーカー、新興勢とともに模索しながら、共に自動車の未来を切り拓いていくことになるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

サイト内検索