大和ハウス工業(株)が、コロナ禍における商業施設の新しいあり方を模索している。運営面では顧客の消費行動の変化に素早く対応して、営業時間の変更を推進。開発面では、引き続きショッピングセンターの開発を進めるが、その一方で、大和ハウスグループの総合力を生かし、オフィスやホテルを備えた複合開発のチャンスをうかがう。「商業施設の存在する意味が変わりつつある」と話す、同社のSC事業部 SC事業推進室長の村田順氏に話を聞いた。
―― 2020年度上期を振り返って。
村田 2月下旬から新型コロナウイルスの影響を受けた。当社は広域から集客するRSCの4施設、近隣を商圏とするNSCの9施設、その他の4施設の計17施設を管理・運営しているが、NSCは新型コロナの影響が比較的軽微で戻りも早かった。しかし、RSCは訪日客の需要を見込んだ「りんくうプレジャータウンシークル」や「イーアス沖縄豊崎」の売り上げが大きく影響を受けた。
それでも、10月以降は気温が下がり、ファッションや雑貨を中心に売上高が昨対を超えるなど、回復基調にある。ただ、食物販店はテイクアウトの実施で持ちこたえているが、レストランは依然として厳しい。お客様も新型コロナの影響を踏まえた消費行動に移行しており、新型コロナの感染拡大も含め、決して楽観視できない状況だ。
―― 消費行動はどのように変わったのか。
村田 お客様は目的の買い物だけ済ませるなど、滞在時間が短くなっている。また、郊外型施設を中心に夜のお客様の引きが早く、レストランやアルコールを提供する店舗は厳しさが増している。当社ではこうした消費行動の変化と、テナントで働く従業員の安全・安心を守るため、テナント各社からの営業時間変更の要望に柔軟に対応している。
―― 上期はイーアス沖縄豊崎を開業した。
村田 6月に開業を延期した同施設は、美らSUNビーチに面しており、エンターテインメント性の高いテナント構成に仕上げている。「DMMかりゆし水族館」や「SMALL WORLDS」(22年春に開業予定)が良い例となる。
そのため、集客の内訳は沖縄県内のお客様が6~7割、国内および海外の観光客が3割を想定し、売り上げはその逆の比率を見込んでいたが、結果は、観光客の比率が想定を下回った。沖縄県内のお客様は想定どおりに推移しているので、国内の観光客をいかに増やすかが今後の課題と言える。
―― 今後の開発案件について。
村田 21年秋に開業予定の「春日井商業プロジェクト」、22年春に開業予定の「流山プロジェクト」、そして19年に取得した「アルパーク」のリニューアルプロジェクトの3つが進行中だ。
春日井商業プロジェクトはSC大国の愛知県にSCを開業する計画で、CSCからRSCの間に位置づける施設となる。テナントは地域密着と新鮮さを兼ね備えた約70店で構成する。流山プロジェクトはNSCに近い位置づけで、周辺はつくばエクスプレスの効果で人口密度が高いことから、SMやドラッグストアなどを導入しつつ、テナントMDで差別化を図る。
アルパークは19年に三井不動産から取得したが、立地特性と百貨店跡地がリニューアルのポイントになる。駅直結で、郊外でも超都心でもなく、それなのに人口が集中しているため、ポテンシャルの高い立地と言える。現在、どのような施設づくりを行うのか、社内で議論を深めている。
―― 商業施設の運営や開発も様変わりする。
村田 新型コロナへの対応は、今、最優先事項から前提条件に移行しており、商業施設の存在する意味も変わりつつある。運営面では安全・安心が前提条件で、客数を伸ばすのは難しいことから、消費者心理を考慮しつつ、客単価の向上に努めていく。加えて、リアルならではの強みを生かすため、テナント各社への研修を行うなど、接客技術の向上も図りたい。
開発面では、19年4月に「グラノード広島」を開業したが、同施設は商業エリアに加え、オフィスやホテルも備えている。新型コロナの影響で、リモートワークの普及や訪日客需要の消滅など、決して事業環境は良好ではないが、大和ハウスグループの事業チャネルを生かし、こうした複合開発もチャンスがあれば取り組みたい。
(聞き手・岡田光記者)
※商業施設新聞2374号(2020年12月8日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.347