コロナ禍のなかで厳しい事業環境に晒された東芝デバイス&ストレージ(株)(東京都港区芝浦1-1-1)だが、足元では車載やデータセンター向けを中心に主要デバイス(半導体、HDD、その他)が軒並み回復基調にある。一方、ASICなどの先端システムLSI事業の新規開発からは撤退したが、ディスクリートと相乗効果の発揮できるモーター制御用アナログICやマイコンを残した。構造改革に終止符を打つと同時に、2021年からは成長路線に転じる。再スタートを切った佐藤裕之社長に、足元の市況や21年以降の事業展望を聞いた。
―― 20年を振り返って。
佐藤 当社の展開する事業はもともとコロナの悪影響を受けやすく、6月ごろまでは非常に厳しい受注環境にあった。半導体では、車載や産業機器向けのデバイスが大きく落ち込み、業績は低迷した。しかし4~6月を底に8月以降受注が反転し、10月から回復基調にある。ニューフレアテクノロジー(NFT)の完全子会社化で、さらに企業価値を高めていく。
一方、将来の安定した収益が期待できなかったシステムLSI事業で構造改革を断行した。特に先端システムLSIの新規開発から手を引き、注力するディスクリート半導体、特にパワーデバイスと相乗効果が期待できるモーター制御用アナログICやマイコンは新規開発も継続する。これにより収益をしっかり確保できる体制に移行する。
―― コロナ禍で出遅れていたマスク描画装置は。
佐藤 20年7月から順次、据え付け業務を再開しており、順調に進んでいる。また次世代のマルチビームタイプはほぼ完成しており、20年度中には出荷が開始されるだろう。実際の売り上げは21年度以降から寄与してくる。
―― 21年の見通しは。
佐藤 コロナの感染拡大の影響など、まだまだ変動要素があるので不透明感は強い。しかし、コロナがこれ以上悪化しないということを前提にすれば、半導体やHDDなどの市況は引き続き回復するとみている。コロナの影響で、DXやIoT化の流れはますます加速するだろう。また低消費電力化ニーズは高く、パワーデバイスの成長路線を堅持する。特に中国市場でパワーデバイスの拡大を図るため、上海ならびに深センの販売拠点でFAEなどエンジニアの増員を検討中だ。
―― ディスクリートとパワーデバイスの展望は。
佐藤 現在の売上規模は19年度実績で約1500億円あり、うち約6割がパワーデバイスで占められている。車載向けを含めて回復してきており、低消費電力化のニーズ拡大や電動車両の需要が増加しているため、まずは過去のピークであった2000億円まで引き上げる。現在、拠点の加賀東芝エレクトロニクスを中心に生産能力の増強を進めており、19~23年度で総額1000億円を投資して生産能力を現行の1.5倍まで拡大する。SiCの6インチラインも姫路半導体工場に導入済みだ。これらを起爆剤に中長期で年率10%と市場平均の倍以上の成長を実現し、将来的にディスクリート事業で3000億円の売り上げを目指す。
―― HDDについて。
佐藤 データセンター向けの大容量ニアラインの需要が好調だ。コロナ禍で当初、稼働率が落ちていたフィリピン工場も現在はフル稼働となり、当社も16TB(テラバイト)の量産を開始した。21年春までには18TB品を上市したい。現在、大容量分野でシェアを拡大中で21年度末には20%まで引き上げ、さらに30%を狙う。競合企業とのシェア差をできるだけ縮めたい。次世代の大容量HDD技術であるマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)や熱アシスト磁気記録(HAMR)も、いつ需要がきても良いように開発を進めている。
―― 21年度の投資の考え方を教えて下さい。
佐藤 基本的には20年度と同等、もしくはそれ以上を見込む。300mmパイロットラインをはじめ、関連企業の東芝マテリアルではパワーモジュール用のSiN絶縁回路基板の新規量産ラインを構築中だ。9月にも稼働を開始する。HDDのフィリピン工場もラインを増強したばかりだが、今後の需要次第ではさらなる増強も視野に入れている。300mmのパイロットラインの導入状況は、当初計画どおり進行中だ。20年度中に加賀東芝エレクトロニクス内での投資に着手、21年度中の稼働を目指す。
(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2021年1月7日号1面 掲載)