電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第413回

おそるべしは台湾TSMCの爆裂的設備投資、10~12月で1.5兆円投入


最先端微細加工プロセスでぶっちぎり先行し、半導体世界王座が目前

2020/12/18

 筆者が初めて台湾を訪れたのは1992年頃であったと記憶している。すでに新竹サイエンスパークには台湾を代表する半導体企業であるTSMCが1987年に設立されており、工場を拡大させている最中であった。強烈に覚えているのは、新竹というところはビジネスホテルが非常に少なく、怪しげなホテルに連泊し続けたことである。そしてまた台湾の美女たちが、これまた怪しげな果実のようなものを売っており、それを食べると体がしびれ、頭がおかしくなったことを覚えている。

 それはともかく、90年代初めの時点では、TSMCが今のような巨大企業になるとは夢にも思っていなかった。この数年間の同社の売り上げの推移はサプライズというしかない。2015年に8435億台湾ドルであったものが、2019年には1兆700億台湾ドルとなり、2020年については1兆2840億台湾ドルが予想されており、多分これを上回る勢いだ。ちなみに同社の20年9月の単月売上高は前年比25%増の1276億台湾ドルであり、過去最高を記録した。半導体業界で著名なアナリストである石野雅彦氏(東海東京調査センター)は、ため息をつきながら、しかして目をかっと見開き、こう語っていた。

 「とんでもないことは、同社の設備投資である。2020年10~12月については何と日本円で1兆5000億円の投資を断行した。たった1四半期でこの数字である。もちろんEUV露光装置の大量導入がある。これを前四半期と比較すれば、2.9倍に増えている。基本的には米国のアリゾナ工場の建物投資が中核になる」

 このTSMCの爆裂的設備投資に対し、韓国サムスンもすぐに反応した。2020年がすべて終わってみないと分からないが、同社の半導体設備投資(支払いベース)はおそらく2兆9000億円くらいになるだろう。もちろんTSMCは2020年通期の発注で3兆3000億円と、これを上回ってくるとみられる。

 こうしたサムスンとTSMCの設備投資競争の中にあって、現在の半導体世界チャンピオンであるインテルはさすがに音を上げてきた。AMD社がザイリンクス社も買収して勢いづくなか、インテルの存在感は薄れてきた。そして垂直統合で立ち上げる戦略に自信がなくなってきた。なぜならAMDは台湾TSMCの最先端プロセスを使って市場投入するわけであるから、インテルが苦戦するのは当たり前なのだ。それゆえに、最近ではインテルもTSMCなどのファンドリー活用を言明し始めたのだ。

5nmの主力工場である台南の「Fab18」
5nmの主力工場である台南の「Fab18」
 TSMCの5nmの出荷枚数は60K/月となっており、供給先はAppleが90%以上である。21年1月以降はAMDやクアルコムの貢献度が上がってくることになるだろう。

 「TSMCのすごいところは、先端パッケージや特別な装置にも膨大な投資を行っていることだ。また研究開発投資も凄まじい。台南で3nmの新工場を立ち上げたうえに、2021年には新竹サイエンスパークに新たな研究開発センターを開設する。ここには8000人の科学者とエンジニアが収容される」(石野氏)

 当然のことながら、この研究開発センターの隣接地には2nmより微細なプロセスの量産工場の建設が行われる予定である。用地取得の最終交渉を進めており、おそらくは、この新竹の新たな工場には2兆円以上が投入されるとみてよいだろう。

 非常に面白いことに、台湾TSMCは東京大学との間で先端半導体分野の研究開発における包括的な連携を行うことになった。東京大学内に設計拠点を新設するとしている。これはゲートウェイ構想と呼ばれる新時代のデバイス開発と量産を描いたうえでのタイアップなのだ。つまりは日本の知財権の柱ともいうべき東京大学の力をうまく利用して、さらなる半導体の進化形を狙っているのである。

 一方で2017年12月には、中国の南京市に300mm工場の拡張用地を取得している。これは用地面積50万m²である。南京第2工場を建設するために用地を取得するものであるが、問題は米中貿易戦争である。米国がTSMCのアリゾナ工場誘致を進めており、TSMCの中国での生産を快く思っていない。米国の政権はあのトランプ大統領から、穏健かつインテリのバイデン大統領に代わるわけであるが、米中対立の図式は継続される見通しだ。

 台湾TSMCの世界ランキング(半導体生産額ベース)は現状で3位に位置しているが、ここ数年のうちにはインテル、サムスンを抜き去り、世界王座につくことはほぼ間違いない情勢と言えるだろう。国内の装置メーカーや材料メーカーがTSMC参りを加速するのは当たり前のことなのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索