電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第412回

「ほんまかいな、なんでやねん、どないやねん」が核心だ


ダイハツ九州の代表取締役社長、泉谷卓司氏が語る言葉は素晴らしい

2020/12/11

 ダイハツ九州(大分県中津市)は、2004年に群馬県前橋市から移転し、コンパクトカーの一貫生産会社として大活躍している。車両工場を大分県中津市に持ち、エンジン工場を福岡県久留米市に備え、開発、調達、生産までをスルーで担っている。ダイハツグループの軽自動車の約70%はこの会社で作られているのだ。

ダイハツ九州(株) 代表取締役社長 泉谷卓司氏
ダイハツ九州(株) 代表取締役社長 泉谷卓司氏
 「ダイハツ九州は最高品質のスモールカーをお客様にお届けすることが最大の使命、といつも思っている。そしてまた重要なことは、工場内、周辺地域、そして人など、すべての環境に配慮した先進的環境モデル工場を徹底追求していることだ。排水の最大30%を再利用可能にし、水資源を節約している。CO2低減にはそれこそ全力を挙げている」

 軽やかな笑顔でこう語るのは、ダイハツ九州にあって代表取締役社長の任にある泉谷卓司氏である。泉谷氏は大阪府堺市出身、父親は靴下やストッキングなどの生産で知られる「福助」に勤務する人であった。海軍兵学校出身であり、広島県江田島で士官として訓練を受け、けじめ、しつけ、五省を大事にする厳しさを持っていた。その父の背中を見て、泉谷氏は育ったのである。

 ダイハツ九州は、本社および大分(中津)工場を組立の量産拠点と位置づけている。敷地は130万m²と広大であり、第一工場は延べ約11万m²、第二工場は延べ約5.3万m²、それぞれの工場の生産能力は23万台を持っており、トータル46万台の量産設備をラインアップしている。そして福岡県久留米工場は2008年8月に稼働しており、敷地17.4万m²に延べ2.7万m²の工場がある。こちらはエンジンを専門に生産しており、能力は年産32.4万基となっている。

 「軽自動車などのスモールカーは、良品廉価を売り物にするだけに、収益を上げることが大変に難しい。しかして、ダイハツはグループ全体としてスモールカーで事業が成立するビジネスモデルの構築を狙ってきた。シンプル、スリム、コンパクトを進化させて、コストを上げない工夫に注力している。ありがたいことに、2019年度のダイハツ九州の売上高は3650億円と過去最高を記録する事が出来た」(泉谷社長)

 ダイハツ九州の入り口を入ったところの正面には、あの伝説の車である「ミゼット」が展示してある。これは一世を風靡した三輪車であり、昭和30年代の映画を見ればよく出てくる。ダイハツの原点である、コンパクトをカルチャーにしたミゼットは低価格で使いやすい、という利点が多くの消費者をつかみ、それこそ飛ぶように売れた。

 そして現在においてはHIJET TRUCK、HIJET CARGOというミニトラックがやはり屋台骨になっており、ダイハツ九州においても月間約1万2000台も生産しているという。これに次ぐのが軽乗用車のTantoとTAFTであり、月間の生産は各6000台程度となっている。一大躍進するダイハツ九州を率いる泉谷卓司社長に、日常的に訓戒していることは何か、と聞いたところ、次のような言葉が返ってきた。

 「“ほんまかいな”と常に言っている。これは人の言うことを鵜呑みにするんじゃない。自分の目と耳で確かめろということだ。“なんでやねん”も私の常套句だ。これは要するに本当の要因を突き止めろということだ。そして極めつけは、“どないやねん”である。自ら調べ確認し、真因をつかみ、如何したいのか、結論は?ということだ。何が言いたいのか分からない人が多すぎる。核心を突いた言葉に集約して、コミュニケーションをとるべきだ」

 いやはや、泉谷社長のいう言葉の奥深さには驚くばかりだ。大阪の堺出身であるからして、関西弁でストレートに部下に対して、訓戒している姿が目に浮かぶようだ。しかして、語る言葉の本質はやはり上っ面で物事を見るなということだろう。いつだって現場を重視し、現地に行き、現物で確認することが、モノづくりの本質と喝破している言葉なのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索