商業施設新聞
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No.784

商業と市役所の融合


山田高裕

2020/12/1

 営利・利益を基盤とする商業施設と、公共への奉仕を基盤とする公共施設。この異なる性格を持つ施設の連携が、近年急速に進んでいる。特に求められるのは集客効果の高い公立図書館で、「イオンモールつがる柏」内のつがる市立図書館や、明石駅前の「パピオスあかし」内のあかし市民図書館、東日本大震災で被災した後商業施設内に再建した陸前高田市立図書館など、様々な図書館が商業施設内に立地している。こうした商業施設と公共施設の融合は、実はかなり前から様々な理由で進められてきた。

 以前からの例は、駅前の百貨店やSC、再開発ビルなどを市役所庁舎として活用するというもの。この背景にあるのは、若干ネガティブになってしまうが、駅前中心市街地の衰退だ。閉店した地方都市駅前の百貨店や、第3セクターによる再開発ビルが事業として頓挫したあと、思うような買い手や跡地活用法が見つからず、空きビルのままにしておくのはまずいという形で市役所などの行政機能が入居した。こうした例は数多くあり、例えば2008年に閉店した駅前百貨店を転用した石巻市役所や栃木市役所、駅前ビルの中核テナント撤退後に入居した新潟市役所や土浦市役所などが挙げられる。

 しかしこうした例では下層階に食品を中心とした店舗が残っている例も多く、それらの店舗は長期にわたって営業を続けている。むしろそうした事例では市役所に用事があって来所した人がそのまま店舗で買い物をするというケースが多く、一種の集客施設としてシナジー効果が生まれているという現状があるようだ。そのため、最近は利便性と集客効果をあてにして、商業施設内に当初から市役所の出先機関などを入れる事例も出てきている。

横浜市役所新庁舎に出店したラクシスフロント
横浜市役所新庁舎に出店したラクシスフロント
 この6月に供用開始となった横浜市の新庁舎では、行政側が積極的に商業施設を庁舎に導入する姿勢を示し、下層部分の1~3階に商業施設の「ラクシスフロント」が開業した。横浜市が所有権を持ちながら、商業施設の運営やリーシング、テナントとの賃貸借契約などは民間事業者が行うというスキームだ。飲食店のほかドラッグストアや雑貨、コンビニ、食品スーパーが出店し、庁舎の職員から近隣住民まで幅広く利用できる形となっている。住民や職員の便益や周辺の賑わいに寄与するだけではなく、市が受け取る賃貸借料によって財政も改善するという形で、Win-Winの関係となっている。

 こうした市役所機能と商業の融合は、商業と公共を「賑わい」という点で結び付け1つにする大きな流れの象徴ともいえる。かつては事業の失敗の尻拭いとして持ち出されてきた市役所機能だが、これからはポジティブな文脈で商業との融合が語られていくことになるだろう。
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