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千代田区高齢者C・九段坂病院(下)、前例のない都市型の新しい病院を創出


鳥飼達也氏「24時間365日の医療・ケア提供と脊椎手術・内視鏡手術を強化」

2013/3/26

鳥飼達也氏
鳥飼達也氏
 (株)日本計画研究所主催の特別研究セミナーで、「千代田区・国家公務員共済組合連合会『高齢者総合サポートセンター(仮称)建設計画』および『合築:新九段坂病院プロジェクト』の進捗と今後の展開」と題して講演会が行われた。千代田区保健福祉部長の松本博之氏による第1部講演「高齢者総合サポートセンターの狙いと設計の特徴」に続き、今回は、第2部講演として行われた国家公務員共済組合連合会 九段坂病院事務次長の鳥飼達也氏の「新九段坂病院における機能と高齢者支援の取組み」をレポートする。
 鳥飼氏は、国家公務員共済組合連合会(KKR)の沿革や年金事業、宿泊事業(共済会館10カ所、宿泊所7カ所、保養所26カ所)、全国35の医療施設(北海道、東北各2、関東12、中部8、中国4、四国1、九州9)などの事業内容を概説した。そのうえで、合築施設の基本設計図の解説を交えながら、「千代田区と九段坂病院の合築事業決定の経緯」「新しい九段坂病院における設計コンセプト」「千代田区と合築することによる効果(病院の視点)」の順で講演を進めた。

■千代田区と九段坂病院の合築事業決定の経緯
 九段坂病院は、一般病床212床、平均在院日数約19日、病床稼働率74.2%、看護基準10対1で、2011年度の医業収支比率は111.3%を誇る。07年に東京警察病院(492床)が区外へ移転したこともあり、千代田区医師会は区内での九段坂病院の再整備を後押しし、KKRおよび九段坂病院では、病院の千代田区区役所跡地への移転と、それに伴う新たな診療機能の付加や充実を提案、陳情を進めた。診療機能では救急、回復期リハビリ、災害医療、昼間人口に対するフィットネスなどを挙げた。
 千代田区では、高齢者サポートセンターの新設構想を具体化しつつあり、センターでは、24時間365日対応の医療が必要となるため、病院との併設を模索し、合築案がまとまった。

■新しい九段坂病院における設計コンセプト
 新病院の基本コンセプトは、(1)患者さんの視点として良質で快適な療養環境の提供、患者さんと病院との信頼による相互協力に基づく医療の提供、(2)医療機能の視点では整形外科をはじめとする高度専門医療の推進、周辺地域における救急医療体制の構築、災害時における機能継続性、地域医療連携の強化、医療環境の変化への柔軟な対応、(3)運営効率化の視点では情報システム等の活用による経営情報の共有、物流システムや動線計画による効率的運用の実現、さらに(4)職員の視点から医療スタッフにとって専門性が発揮でき、働きがいのある病院、様々な職種のスタッフが協働しやすい環境を備えた病院、働きやすい職場・就労環境の充実などを示した。
 東京都の「区中央部医療圏」(千代田区、文京区、中央区、港区、台東区)は人口約70万人で、駿河台日本大学病院(千代田区)、国立がん研究センター中央病院、聖路加国際病院(以上中央区)、KKR虎の門病院、東京慈恵会医科大学附属病院(本院)、東京都済生会中央病院(以上港区)、順天堂大学附属順天堂医院、東京医科歯科大学附属病院、東京大学附属病院、日本医科大学付属病院(以上文京区)など有力病院が集中的に立地している。12年10月31日現在で都内の13医療圏のうち、区中央医療圏のみ基準病床数6208床に対し、2倍以上の既存病床数1万3703床がある。
 病床数別の病院数は、20~99床が27病院、100~199床が8病院、200~299床が6病院(九段坂病院含む)、300床以上が14病院で、その300床以上の14病院が1万床以上の病床数を占めている。また、千代田区は住民票登録人口5万人に対し、昼間人口が80万人を超えている。
 こうした状況の中で、新病院では、これまでの医療機能をさらに伸ばす方針を打ち出している。
 九段坂病院では、1980年度から07年度までの脊椎手術数が延べ8378件(腰椎5525件、頸椎2195件、胸椎658件)に達している。これは脊椎系の優れた医師が存在するほか、高齢化の進展に伴い脊椎の罹患率が高まっていることが要因で、年間の脊椎手術数は、86年(平均年齢48.2歳)が100件ほどであったが、96年(54.7歳)は300件、06年(63.7歳)は800件へと増加。08年から11年は900件以上で、このうち09年は1000件を突破している。今後の高齢化の進展でさらに患者数、手術数が増えると予想しており、新病院では、脊椎脊髄外科手術の拡充を図る。
 脊椎手術と並んで、内視鏡手術も増強する。九段坂病院では06年から内視鏡検査の年間検査数が5000件を超え、11年は6203件に上る。また、外科手術の内訳は、開腹手術件数が100件未満にまで漸減傾向にあるが、ESD・EMR件数は400件以上を維持している。内視鏡検査や他の診断機器による早期発見に努め、早期なら内視鏡手術で対応が可能であり、また患者の身体的な負担が軽いため内視鏡手術を増やしてきた。特に、腹腔鏡・子宮鏡下手術(婦人科)は、09年の101件から10年に132件、11年に127件と増えており、この分野の拡充を図る。手術室は現在の3室から新病院では5室に増設し、さらに、将来的には手術室の増設が可能なスペースを確保している。
 これら医療機能の増強のほか、新病院ではリハビリテーションの中核医療機関、行政から病院へのシームレスな在宅医療の支援(医療・介護機能)、災害時に医療継続できる機能構築に取り組む。
 東京都は、回復期リハビリテーション病棟が人口10万人あたり40床弱(12年11月6日現在)で、全国平均の50床を下回り、特に、同病棟がゼロの千代田区をはじめ区中央医療圏は23.6床(11年2月)にとどまっているため、新病院では40床前後の同病棟を新設する。
 千代田区高齢者総合サポートセンターの5機能のうち、新たな医療・介護機能として「在宅ケア(医療)拠点」を九段坂病院が担う。「在宅ケア(医療)拠点」では、総合診療部門の新設とともに、24時間365日の医療相談対応、緊急入院病床の確保、訪問診療など在宅療養支援などを行うと同時に、「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「通所リハビリテーション」を実施する。また、九段坂病院と地域の病院などと患者データを共通化し、地域連携パスを構築する。さらに、1階に区の(仮称)高齢者総合サポートセンター相談拠点と、九段坂病院の地域連携室を隣接して設置し、医療と福祉にわたるシームレスな相談拠点として運営する。
 災害時対策では、予測されるマグニチュード7.3クラスの大地震、想定外の巨大地震、長周期地震に対してフェイルセーフ機構を持つ構造計画としており、建設コストは1.3倍になるものの、災害直後から応急対策・救護施設の拠点として機能できる高性能免震システムを採用する。免震装置の選定に際しては、上部建物の構造特性、各種免震装置の特性、経済性を考慮し、建物に最適な免震装置を選択している。また、建物外周部には、地震力により生じる免震部材の水平方向の変形量を確保するため、建物と外周擁壁との間に適切なクリアランスを設ける。さらに水害に備えて6階と14階に設備スペースを確保する。このほか、1階の多世代交流拠点は災害時にトリアージスペースに転用、4階には医療ガス設備を装備するが、緊急時にベッドを置くことも検討している。
 千代田区高齢者総合サポートセンターの専有部分を除く、九段坂病院のフロア構成は、1階に病院主出入口、ホール、受付、薬剤、売店・軽食コーナー、救急(初療、観察、処置)、皮膚科、診察3室、小手術、感染室など、2階は総合待合、医事、放射線部門(MRI 3室、X線TV 2室、CT、マンモ、骨密度各1室、一般撮影4室)、生理検査、総合内科、心療内科、外科、整形外科など診察室17室、化学療養、エコー室などを配置する。
 3階は内視鏡4室、中央材料室、手術室5室、麻酔室、将来の手術室増設用器材庫、病理、検体、細菌の各検査室、泌尿器科、耳鼻科、婦人科、眼科など診察室8室。4階は高齢者総合サポートセンターが活用し、5階は高齢者サポートセンターの機能回復訓練室などのほか、病院のリハビリ施設を設置。6階は医局や管理部門、電気室、設備機器スペース(屋外)。7階以上が病棟で、7階は41床(4人部屋6室、個室7室とHCU 10床想定)、8~12階は42床(4人部屋6室、個室18室・うち重症用4床)となる。在院日数50日程度を見込む回復期リハ病棟は眺望の良い12階に設置する。
 13階は健診センターとして、X線TV室2室、マンモ、エコー室3室、心電室、眼底室、検査2室、診察3室などを設けるほか、講堂、カンファレンス室、職員食堂・ラウンジ、レストランを配置、14階には電気室、ボイラー室、熱源機械室、ハロンボンベ、機械室と、屋外に設備機器スペースを確保する。
 地下1階は、薬剤(調剤室、製剤室、無菌室、無菌製剤)、厨房、医療ガスボンベ、霊安、剖検、中央倉庫、リネン・選択、防災センター、受水槽、消化ポンプなどを設置する。

■千代田区と合築することによる効果
 千代田区と合築することによる、病院の視点から見た効果として、病院からの退院・転院に際し、行政と密に連携しスムーズな対応を行うことができることや、これからの超高齢化社会において、社会福祉協議会やボランティアセンターなどと連携した新たな高齢者ケアモデルの創設、医療と介護のシームレスな連携強化などを挙げた。鳥飼氏は「千代田区は人口が増えており、また、高齢化率の上昇で疾病罹患率、特に筋骨格系疾患が増えるといわれている。こうしたニーズに高度な医療を提供して経営を安定させながら、独居老人の異変への早期対応体制と支援機能などを併せ持つ、前例がない『都市型の新しい病院』をつくっていきたい」との抱負を語り、講演を締めくくった。
【九段坂病院新病院概要】▽建設地:東京都千代田区九段南1-5-2、敷地面積3333m²、九段坂病院面積2万293m²、千代田区高齢者総合サポートセンター5014m²、▽診療科:内科、心療内科、外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科、総合診療部門と付属健康医学センター、▽病床数:252床(予定)

(この稿終わり)

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