電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第31回

「人間の欲望は消えない。それを刺激する商品を創れ!!」


~関東経済産業局長 宮川正氏が繰り出す活性策に注目~

2013/2/22

経済産業省関東経済産業局長 宮川 正
経済産業省関東経済産業局長 宮川 正
「モノが売れないとひたすらに嘆く人たちがいる。しかして、それは酷なようであるが、ある種の言いわけなのだ。実は売れないものを作っているだけ。人間の根源的なニーズを満たす商品、画期的な新技術で新市場が開ける商品を作れば、ヒットするケースは数多い。我々は皆、諦めてはいけないのだ」

 こう語るのは、関東経済産業局にあって、局長として様々な産業活性策を陣頭指揮する宮川正氏である。いうまでもなく、経済産業省直轄の地方組織である経産局の中で関東エリアは最大の存在であり、全国のGDPの40%を占めている。関東経産局と名づけられているが、カバー範囲は関東1都6県に加え、甲信越、さらには静岡まで広く実に1都10県を管轄しているのだ。この1都10県だけでイギリスのGDPを超えてしまっているわけであり、それだけに関東経産局の果たす役割は重い。

 「わが国の製造業のグローバル展開が加速する中にあって、重点的に取り組み、育成しなければならないいくつかの産業がある。その筆頭格は、安倍首相も強調しておられるように、医療機器産業の世界展開にあるだろう。医療・介護・健康産業は少子高齢化を実体験しているわが国だからこそ、世界モデルともなるハイレベルのビジネススタイルを構築できると考えている」(宮川局長)

 関東経産局エリアには国際競争力を持つ多くの企業が存在している。国内トップの医療機器メーカーであるテルモの拠点工場は山梨、静岡にあり、北里柴三郎博士たちが創ったというこの企業の創業は1921年(大正10年)9月と古い。東京都文京区には2009年のグッドデザイン賞を受賞した「ジョーウェル・エルゴ・スーパー剪刀」の生産を手がける東光舎があり、この医療用鋏は腹腔鏡下小切開手術に最適な機能を備えている。埼玉県川口のメトランは画期的な人工呼吸器「ハミングX」を開発したが、これは毎分900回という振動で喚気回数を多くし、肺内部の圧力増大を低く抑え、かつ後遺症もなく細胞も傷つけないという優れものだ。

 長野県諏訪にはサンメディカル技術研究所(植込み型補助人工心臓を開発)、栃木県宇都宮にはマニー(世界初の商品化に成功したオーステナイト系ステンレス縫合針を製造)などもあり、まさに多士済々であるという。また、栃木県鹿沼のスズキプレシオンは、半導体製造装置などで培った技術の横展開を進めており、単孔式内視鏡下手術用デバイスの開発に成功している。そのほかにも、大手下請けからの成長を図るべく栃木県那須塩原のヒロセ電子システムが東芝メディカルシステムズのサポートを得て、ガン治療システム、X線撮影装置などの医療機器部門に本格参入している。

 関東経産局は管内における医工連携を加速化するべく、医療機器産業へ新規参入を目指す中小企業の支援、海外展開の支援などを積極的に展開している。また、管内でも栃木県では東芝メディカルシステムズを会長とする「とちぎ医療機器産業振興協議会」(会員140社)に対して様々な支援活動を行っている。

 「日本における下請けといわれる中小企業には、技術の宝箱が多く眠っている。それらはステージさえ得られれば、世界に羽ばたくハイレベルの製品となってよみがえっていく。これまで戦後経済を支えてきた電機、機械、化学、素材系などには、今後の成長産業となる医療・環境・次世代自動車などに応用できる技術がいくらでもある。こうした新ビジネス創出のマッチングこそ、関東経産局の使命となるべきものだ」(宮川局長)

 さて、宮川局長は東京都杉並区出身、都立西高校を経て東京大学経済学部に進み、経済産業省に入省する。官僚として日本のモノづくりに貢献したいとの一念から、この仕事を選んだという。工業技術院を手はじめに資源エネルギー庁、電気機器課などを歴任し、2000年には国会担当参事官となり、小泉政権における様々な改革運動に参画した。また、若き日にはアメリカのジョンズホプキンス大学に学んだが、ソビエト崩壊寸前の国際情勢をこのときによく理解できたという。

 アベノミクス効果により円安、株高が続く昨今の状勢は日本のモノづくりに追い風と捉える宮川局長は、やさしい笑顔で、しかしきっちりと眼を見据え、こうコメントする。

 「今こそ、ニッポンのモノづくりの底力を見せつけたい。医療以外でいえば、新潟市や長野県飯田で進んでいる航空宇宙産業の育成にも全力を挙げたい。ただ、ニッポンの問題点は、消費者視点でのモノづくりがまだまだ弱いことだ。女性の視点、生活者の視点をしっかりと捉えていくべきだ。モノがなかなか売れなくなったというが、人間の欲望というものは消えないのだ。それを刺激するモノづくりについて企業、民間人、行政は力を合わせて議論し、明日のニッポンを構築する努力を払わなければならない」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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