電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第30回

25歳以下の人口6億人という若き国インドに注目せよ


~中国とは違う親日の国からの熱いメッセージ~

2013/2/15

日本通のプレム・モトワニ氏
日本通のプレム・モトワニ氏
 大昔のことであるが、「インド人もビックリ!!」というカレーのコマーシャルがあった。筆者はそのころ子供ではあったが、なかなか面白いCMであったので、食い入るように見ていたものだ。もっともそのころは、インド人といえばターバンを巻いて不思議な魔術を扱う人たちという偏ったイメージしかなかった。

 さて、日本からのインドに対する投資は、ここに来て一気に急増している。2006年段階では、日本の対外投資全体の4%しかなかったものが、2011年度にいたって、驚くなかれ11.1%にも達しているのだ。2010年度との比較でいえばほぼ倍増しており、インドは対外投資国ランキングでは堂々の第3位に位置しているのだ。

 ちなみに、業種別に見る日本からの対インド投資は、やはり自動車がトップであり、全体の40.4%を占めている。次いでサービス業が21.7%、エレクトロニクスが17.3%となっている。一方、インドからの日本向け輸出は全体の1.8%(178億ドル)にとどまっており、中国の6.7%に対し非常に低い。インドにとって最大の貿易相手国は2007年以来、中国がトップとなっている。

 今や時の人ともいうべき安倍首相が、インド政府と話をするときに必ず出てくる人がプレム・モトワニ氏である。重要な政府間の交渉にこの人が登場しなかったことはない、というほどの日本通であり、流暢な日本語をきっちりとしゃべる。モトワニ氏は東京大学に2年間留学し、広島大学では教鞭もとっている。彼の研究テーマはなんと「日本近代史」である。そのモトワニ氏はいかにインドが平和主義であり、親日であるかについて次のように語るのだ。

 「インドは5000年もの歴史を持つ古い国であるが、1回も海外を侵略したことがない。とにもかくにも国民全体がひたすら平和主義なのだ。中国と異なり親日的であることでもよく知られている。何ゆえにそうなったかについては、様々な分析がある。私の考えでは、日露戦争で小国ニッポンが超大国ロシアを破ったことが大きいだろう。あんなに小さな国でも頑張ればできるのだ、という思いがインドの独立運動のきっかけとなったことは間違いない」

 さて、モトワニ氏はインドと日本は直接的な競争国ではないとして、もっと相互理解を深め、経済面でも技術面でも深く交流すべきだと訴える。日本は少子高齢化に苦しんでいるが、インドは12億6000万人と巨大人口を持ち、なんとそのうち25歳以下の人口が6億人という国なのだ。とってもとっても若い人たちが闊歩する世界なのだ。日本がハードウエア大国であるのに対し、インドはソフトウエア立国を標榜している。また、日本が食料品輸入国であるのに対し、インドは自給率100%以上という農業国なのだ。

 「日本の強みはなんといっても、インフラがしっかりしていることであり、ものづくりという点でも群を抜く技術力を持っている。人材育成やプロジェクト管理に関するノウハウも高レベルのものを積み上げている。ところで、こうした日本の強みはそのほとんどすべてがインドの弱みといってもよいだろう。それゆえに、日本の優れたハードとソフトの技術をぜひインドに導入してもらいたい」(モトワニ氏)

 ところが一方で、日系企業のインド戦略はかなりの点で欠如しているものが多いとも言う。価格に敏感なインド市場において、日本製の自動車や家電は価格設定が割高であり、どうにも受け入れられないところがある。また日本は常に国内市場を最優先するため、新興国に対しては過去に日本で成功したモデルを投入するケースが多い。つまり、現地事情を配慮したマーケティング戦略になっていないのだ。
 最も笑い話となるのは、灼熱の国インドに対し、暖房機能のついたエアコンを押し売りしようとするのだ。研究開発とデザインを日本で行い、インドを実験の場として活用するという考え方がなかなか取れない。それゆえにインド進出戦略に関していえば、欧米企業や韓国企業に後塵を拝してしまうのだという。超日本通のモトワニ氏は、後退していく日本の姿を少し悲しみの眼を持って見ており、次のようにコメントする。
 「日本の技術力は圧倒的に高い。特許件数は日本は世界第2位であり、R&D投資はGDPの3.2%に達している。これが充分に活用されているとはいえない。世界はオープンイノベーションの時代に突入しているというのに対し、ものづくりにおいて初めから終わりまで何でも自分でやりたがる。また、異文化に対し、やはり壁を作っている。結果として日本企業は総じてM&Aを行う自信がない。世界平均が4.3%に対し、日本はなんと0.7%しかM&Aがないのだ。また日本人は厳しい選択を先送りする傾向が強い」

 しかしながら、若者で溢れかえるインドの消費を味方につけない限り、日本の将来の発展はないとまでモトワニ氏は言い切るのだ。

 かの太平洋戦争でわが国が大敗を喫し、戦勝国が徹底的に日本を糾弾するという東京裁判が開かれ、その事実が次々と明らかになってきている。東条英機や広田弘毅をはじめとするA級戦犯も数多く出て死刑となった。こうした勝ち組の欧米主導型の東京裁判の中で、「この裁判は公平ではない。もっと日本の言い分も聞くべきだ」と、ただひとり敢然と主張したのがインド人の裁判官であった。このことを、今日の日本を生きる多くの人たちに認識してもらいたいと思う。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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