商業施設新聞
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No.398

国立競技場の“ひよこ”


古沢 大輔

2013/2/12

 今冬は自分史上最高の風邪予防策を講じたのだが、これがまたあっさりと破られ、しばらくまるで仕事にならなかった。激しい咳で喉をやられ、声が出なくなってしまった。冬の初めごろから、体調管理、適度な運動、早寝早起き、バランスの取れた食事、サプリメントに予防接種等々、風邪をひかないためにあれこれとやってきたつもりだった。(まあ、これだけやればウィルスよ、つけ入る隙はあるまい)とニンマリしていたところ、これがかえって風邪菌のやる気を俄然刺激したと見え、終わってみれば惨憺たる結果に。サッカーでも野球でも、守りを固めたチームが1点取られたところから気持ちが切れてボロ負け…、というのはよく見る光景だが、今年は治癒するのにも1~2週間とずいぶん時間がかかった。

 そんな風邪っぴき期間中、体調が最も優れなかった1月27日、家族で東京都新宿区の「新宿シティハーフマラソン」に出かけた。もちろんヘロヘロの私が参加するわけではなく、ヘロヘロでなくてもこの種の競技は自分が苦手とするところなのだが、参加したのは愛息である。毎年この大会に参加している義兄が自らの申し込みにあわせ、未就学児が42.195mを走る「ひよこの部」に、私の息子の分を応募してくれた。そうしたところ肝心の義兄の方は抽選に漏れてしまい、我が家の“ひよこ”だけが受かった。義兄は残念がった。

ランナー達の聖地「国立競技場」
ランナー達の聖地「国立競技場」
 会場は、国立競技場。正式には国立霞ヶ丘競技場・陸上競技場というらしい。運営する日本スポーツ振興センターの公式ホームページに、「第3回アジア大会と第18回オリンピック東京大会招致のため、1958年、旧明治神宮外苑競技場跡地に『力強さ』『簡潔』『優美』というデザインコンセプトのもとに建設されました」との説明文が載っている。陸上競技、サッカー、ラグビーにとっては「聖地」とされる場所だとも聞く。

 今の国立競技場は2014年7月に解体される予定だ。12年11月の世界的設計コンペで、英国のザハ・ハディド氏のデザインが最優秀賞に選ばれ、いよいよ建て替えが決まったのだ。13年度に基本設計、14年度に実施設計が始まる。カブトガニを思わせるようなシャープで光沢のあるデザインは未来感たっぷりだが、やはりランナーにとっては今はまだ、ピカピカの新競技場よりも歴史ある今の国立に寄せる思いの方が強いのに違いない。

保護者と未就学児が42.195mを走る「ひよこの部」
保護者と未就学児が42.195mを走る
「ひよこの部」
 さて、息子は仏頂面で何度か転びながら42.195mを走りきった。次は新国立競技場で走ることになるだろうか、とふと思ったが、考えてみれば新施設の完成は19年3月だ。今2歳の息子は、その時8歳。その頃にはもう、“ひよこ”ではなくなっている。

 競技場脇の外苑西通りを、カラフルなユニホームを着た無数のランナー達が颯爽と駆け抜けていった。苦しそうではあっても、どの人もはつらつと走っている。その表情を見たからか、私が弱りきっていたからかはわからないが、子の健康を願う親の月並みな思いも、この時にはことさら新鮮に感じられた。
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