昨年末の忘年会は31回に及び、今年の新年会は17回を消化している最中であり、「もうお酒はいいかもしれにゃい」とげっぷの出る有様なのだ。紳士然として軽くほほえみ、ワインを少し口にする程度で談笑するのが、各種工業会や業界団体における新年会の正しい姿であろう。ところが筆者は、ビールをがぶ飲みし、焼き鳥を2、3本口にくわえ、ローストビーフの列に並ぶほどのイジ汚さであり、とにかく目一杯食べてしまう。その後は、多くの人の挨拶をほとんど軽く受け流し、楊枝で歯をつつきながら、コンパニオンのお姉さまと話すばかりであるから、新年のよき交流はほとんどできないのだ。
ところで、今年の各工業会の新年会は昨年に比べ明るかった、との印象が強い。昨年末の衆院選挙で自民党が圧勝し、安倍内閣発足を契機にした株高・円安が人々の顔を和らげているといえよう。新年会でよく出会うことの多い官僚のひとりは、筆者にこうつぶやいていた。
「ある電機メーカーの元キャンペーンガールの女性大臣がヒステリックに事業仕分けを叫び、これで徹夜が続くことは実に情けなかった。昨年末のぎりぎりの衆議院選で我々も自民党圧勝による新内閣の対応に追われ、早期の政策作りに徹夜が続いた。しかし楽しかった。後ろ向きのことをやる徹夜はつまらないが、前向きのことをやる徹夜には力が湧くのだ」
ところで、今年の業界団体の新年会は異例のことが多かった。自動車工業会の新年会には安倍首相が自ら顔を出し、力強く檄を飛ばしたという。また、電機業界最大の団体であるJEITAの新年会にはなんと茂木経産相が出席し挨拶をしたというのだ。筆者の記憶では、政治家から電機業界は非常に軽く見られており、電機関連の業界団体に大臣が顔を出すなどということはほとんどないのだ。JEITAでいえば、かつて森経産相(当時、後に首相)が珍しく顔を出したことを覚えている程度だ。政治家には先端ハイテクなど分かりはしないのさ、とささやく記者達の声が例年の新年会には満ち満ちていたのだ。
ところが、今年は様変わりとなっている。安倍新内閣は20年以上続いているデフレ脱却を目指し、大掛かりな金融緩和を打ち出した。また、製造業支援のため公的資金を活用する方針を固め、官民共同で1兆円のベース資金を作り、新たな投資を促すという戦法にも出てきた。さらに、世界的な研究や発明に結びつくR&Dや、大手や中小企業の雇用拡大のための国内設備投資には手厚い助成を行う、との方向も打ち出している。メディアに向かって言うだけではダメ、との思いから安倍首相を先頭に、モノづくりに関わる団体の様々な会合に大臣クラスが出てくるとの風向きになってきたようだ。
しかして、半導体関連の足元は決して明るくない。2012年の世界半導体市場は3.2%減であり、約2900億ドルと停滞している。2013年については4.5%増を見込むとはいうものの、IT業界の成長の柱とも言うべきモバイル端末のiPhone5はここに来て発注を50%減にする状況であり、まだまだ本格的な明るさは見えない。
SEAJの新年会は盛況であった
(左端がサンディスクの小池社長)
SEAJ(日本半導体製造装置協会)の新年会にも招かれたが、ご来賓としては大臣官房審議官の宮本聡氏が来賓の挨拶を述べ、かなり盛り上がっていた。とりわけ、乾杯の音頭をとったサンディスクの小池淳義社長の挨拶は非常に勢いのあるものであった。サンディスクは米国のカンパニーであるが、イスラエル、インド、中国の人たちが創業した。92年8月の発足からすでにグローバルベンチャーとして注目され、一気に一流の会社になってしまった。同社がフラッシュメモリーで東芝と共闘していることは、つとに世に知られている。小池社長は乾杯の前に高らかにこう叫んだ。
「サンディスクはグローバルカンパニーであり、世界で最も優れている技術をそれぞれの国から調達するという方針をとっている。設計でいえばイスラエル、インドを活用する。フラッシュメモリー製造でいえば、わが国ニッポンに集中している。世界で最も高いモノづくりの力を持つのは日本なのだ、という認識が強い。このことを強く意識して、これからも我々はモノづくりのスピリッツを持ち続けなければならない」
『ニッポンのモノづくり復活』という足音が聞こえてくる初春の寒い夜のすがすがしさを感じて、久方ぶりに幸せな気分になった。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。