木枯らしが吹き始めた12月初旬のある日の午後。店舗の取材を終えて、会社に戻ってみると、机の上に1枚の伝言メモが置かれていた。そこには「廿日市市役所のAさんから電話がありました」と書かれており、折り返しの希望の有無は明記されていなかったが、思い当たる節があったので、すぐさま廿日市市役所に電話をかけた。しばらくして、電話に出たAさんは「まだ予定ですが、今月の25日に当市役所で、商業施設の立地に関する協定書の交換式を開催します。同式に出席されますか?」と、連絡した理由を丁寧に説明してくれた。私は「必ず参加します」とAさんに伝え、電話を切った。
このやり取りの後、私は滅多に人前で見せないが、小さなガッツポーズをした。それはなぜか? 流通業界向けに商業施設新聞を発刊している弊社だが、流通報道記者会に所属しているのは、弊社の東京本社のみであり、筆者が籍を置く大阪支局は加盟していない。そのため、本来ならば出席できる記者会見も参加できない場合があり、「実は昨日の14時に、某ホテルで(記者会見を)開いたんですよ~」と、広報担当者から後日談として聞かされることもしばしば。聞かされるのはまだマシな方で、最悪のケースでは、「記者会見に参加された方にのみ、情報を開示しています」と電話口で一蹴されることもある。確かに、前述のAさんとは電話で数回やり取りを交わしたが、まさか大阪支局の電話番号まで覚えていたとは予想だにできず、びっくりすると同時に、とても嬉しい気持ちになった。
協定書の交換式は、廿日市市役所の会議室で行われた。出席したのは、(株)イズミ側が代表取締役社長である山西泰明氏、専務取締役の吉田恒彦氏、執行役員開発本部長の黒本寛氏ら3人、廿日市市側は廿日市市長の眞野勝弘氏、廿日市市議会議長の角田俊司氏ら4人。一方、新聞記者は筆者も含めて4人が出席した。同式の挨拶で、山西社長は「今回、建設を計画している商業施設は、3世代のみなさんが楽しんでもらえるショッピングモール“ゆめタウン”の業態を想定しており、廿日市市で生活を豊かに楽しんでもらえる商業施設となるように、今後、協議を重ねながら、詳細なプランを練っていきたい」とコメントした。従来の記者会見とは異なり、同式ではQ&Aの時間が用意されていなかったが、延べ約9万6500m²、売り場面積2万2400m²という施設の規模に加え、大手業界紙や地方紙の記者たちと、同じ場所で、同じ時間に、同じ話を聞けたことが、私にとっては“楽しい”経験となった。
以前、会社の酒席で後輩に「仕事は楽しいですか?」と聞いたところ、あまりいい返事が返ってこなかったのを覚えている。確かに、今はあらゆる業界に不況の波が押し寄せており、新聞業界もご多分に漏れず、取材に応じる企業はめっきり少なくなった。しかし、筆者はこの不況下でも「新聞記者」でいられることが、嬉しいことであり、楽しいことでもある。これから新聞業界を引っ張っていく若人たちには、その当たり前のような嬉しさや楽しさにもっと気付いてほしいと思う。