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第400回

(株)ブイ・テクノロジー 専務執行役員 開発本部 第一開発担当 マイクロLED研究開発部 梶山康一氏


μLEDプロセスを一貫開発
RGB転写や高速LLO推進

2020/11/13

(株)ブイ・テクノロジー 専務執行役員 開発本部 第一開発担当 マイクロLED研究開発部 梶山康一氏
 FPD製造装置大手の(株)ブイ・テクノロジー(横浜市保土ヶ谷区神戸町134、Tel.045-338-1980)は、公表された限りでは唯一、マイクロLEDディスプレーの製造プロセスおよびその装置開発を一貫して手がけている。開発を牽引する専務執行役員の梶山康一氏に、8月に開催されたディスプレーの国際学会「SID Display Week 2020」での発表内容を中心に話を聞いた。

―― マイクロLEDに関する貴社の取り組みから。
 梶山 フレキシブルなマイクロLEDディスプレーを実現するため、(1)フリップチップ(FC)型LEDチップのデザイン、(2)レーザーリフトオフ(LLO)技術、(3)BPEB(Bump Penetration Electric Bonding)と呼んでいるチップ実装、(4)無機蛍光体を用いた色変換層の形成、(5)シリコンチップを用いたLED駆動技術、(6)パーツフィーダー形式のリペア装置という、一連の製造プロセスと装置を開発しているのが特徴だ。このうち装置としては(2)(3)(4)(6)の専用装置を開発している。こうした一連の装置を1社単独で開発・提供できるのは当社だけだ。

―― 2018年11月に開発を発表しましたね。
 梶山 開発した一連のプロセスと装置を用いて、直径3mmの棒に巻き付けても発光するフレキシブルなマイクロLEDの色変換層を開発した。FC型UV-LEDチップをこの無機蛍光体で色変換してフルカラーを得る手法で、LEDチップはナイトライド・セミコンダクター(株)から提供を受けた。当時のチップサイズは17×49μmで、これはFC接続で確実に導通させるための端子サイズを考慮したものだ。

―― この際にLLO技術として「パーシャル・セレクティブLLO(PSLLO)」を開発した。
 梶山 当社が提案する製造プロセスは、LEDチップをキャリアに移載せず、ウエハーからポリイミドベースのフレキシブル基板に直接転写するところに特徴がある。PSLLOは、これを実現するための重要な技術だ。
 まずウエハー裏面からレーザーを照射してLLOを行い、ウエハーとチップの界面の結合力を弱めておく。次に、バンプを形成した基板に接着層を介して、LLOしたウエハーを熱圧着する。硬化後にウエハーを剥がすと、結合力が弱まっているため、基板側にLEDチップがすべて転写されるという仕組みだ。この工程が(2)(3)である。
 ちなみに、これまでの当社の検証結果で(2)(3)のプロセスの転写成功率は14万チップ以上に対して99.99%を達成している。

―― 今回のSIDでの発表内容について。
 梶山 従来のUV-LED+無機蛍光体によるフルカラー化ではなく、RGB個別のチップを実装してフルカラー化するプロセスを開発・発表した。UV-LED方式はチップの構造や強度が同じであるためプロセス条件を一定にしやすい利点があるが、色変換層の形成が不可欠だ。だが、RGBチップを用いれば、実装の手間が増えるものの、色変換層は不要だ。
 当面はUV-LEDによる色変換方式とRGB-LEDによる方式を並行して開発する予定だ。

―― 具体的にRGBチップをどう実装しますか。
 梶山 エラストマースタンプ(PDMSなど)を用いたロールトランスファー技術を採用した。LLOによりUVリリーステープ上に転写されたLEDはローラーによりスタンプ上に転写される。ローラーとXYステージを同期させ、アライメント制御しながらRGBそれぞれで転写を行い、スタンプ上にRGBのLEDアレイを完成させて、最終的にこれを一括転写する。これから技術の完成度をさらに上げていくが、現状ではめどが立っている。

―― その他の改良点は。
 梶山 LLOの高速化を進めている。従来は4インチウエハーで約3分かかっていたが、レーザーおよびガルバノミラーとステージスキャンを搭載した光学系の改良によって1分以下を目標にして短縮する。ウエハーにキズや異物の付着があった状態でLLO成功率99.998%を達成できており、年内にはもっと詳しい実験データを得ることができる予定だ。これによりプロセスタクトを大幅に短縮することができる。
 また、(5)でPWM(Pulse Width Modulation)駆動を実現するチップを開発したので実装を進めている。LEDチップをPWMで駆動するのは、TFTだと難しいと思われるためである。さらに将来、スキャンドライバーも内蔵した独自チップを開発してバックプレーンに実装し、フレキシブルに広く対応していきたい。

―― 本格的な事業化の見通しについては。
 梶山 18年11月に発表したLLO装置とLED移載装置はすでにユーザーに納入済みで、サポートを継続している。
 FPD各社の投資計画によると、先行メーカーは21年後半から試作ラインを導入し、22年に本格量産というプランを立てている。マイクロLEDディスプレーを開発する各社も、量子ドットによる色変換技術は材料寿命の観点などから難しいと考えているようであるが、当社は寿命も長く耐環境性の高い無機蛍光体とUV-LEDの組み合わせと、赤色マイクロLEDチップの性能の向上の両方を勘案しながら、このタイムスケジュールに合わせて、当社も個々のプロセス技術の完成度をさらに高めていくつもりだ。
 マイクロLEDディスプレーは、液晶や有機ELのような大規模生産ラインではなく、多品種少量生産を実現できるコンパクトな製造ラインが必要とされるはず。この場合の投資額は1ラインあたり50億円程度で済む。日本企業でも十分に投資できる規模であるため、マイクロLEDの開発・量産に多くの日本メーカーが参入してほしいと切に願っている。

(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2020年11月12日号6面 掲載)

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