電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第375回

ビジネスの潮流はエンドユーザー視点へ


「お困りごと解決」「コラボレーション」「技術安全保障」が1セット

2020/11/6

 今から10年ほど前、まだ本紙が「半導体産業新聞」だった頃、半導体商社業界の取材も担当させていただいていた時期があった。その頃の各社のキーワードは「FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)」であり、つまり単なる製品販売ではなく、技術サポート力も高く、モジュールに組み上げた提供も可能、というものであった。また、デジタル家電、ガラケー(携帯電話)、デジタルスチルカメラなど、日本勢が最終セット製品で世界を席捲していた状況下では、デバイスメーカー、電子部品メーカー、商社など各社が耳を傾け、注力すべき対象は“納入先のお客様”と明確だったように思える。

 さて、様々な人生経験を経て、今春あたりから再び、コロナ禍ゆえ制約があるなかではあるが、エレクトロニクス商社複数社に取材させていただく機会があった。そこで共通に飛び出したキーワードは「お困りごと」という言葉。その「お困りごと」も従来とは異なり、目線の先にあるのはエンドユーザーなのだ。

「お困りごと解決」から新規ビジネス創出

 これは商社に限った話ではなく、電子部品メーカー、半導体デバイスメーカー、自動車関連メーカーなど様々なフィールドの皆様に取材させていただく機会があるが、その際にも「エンドユーザーのお困りごと解決」から新規ビジネスを創出していく流れに大きくシフトしていることを実感している。そしてそれは、1社で抱え込むビジネスモデルではなく、複数社との連携ありきなコラボレーションで創出されていく。

 さらに前段の「お困りごと」そのものを、社員各自が日常生活の中で、ビジネスシーンの中で自主的に見つけ、それを解決するための手法を異業種の方々も巻き込んで考案し提案していく。見つけた「お困りごと」の角度によっては、新たな専門的技術を学び、資格を取得する、特許を取得するなど自主的アクションをも伴う、全く違う業界に足を踏み入れることになる、など従来の働き方とは異なる要素が多分に求められていることを、取材を通じて痛切に感じている。

 たとえば直近の事例では、本紙10月15日号で掲載させていただいたが、TDKの石黒社長は「熱とノイズは仕事の宝」として、「熱もノイズも無駄になるから放出されるものであり、無駄を無くせばエネルギー消費量も削減できる。ここに電子部品メーカーとしての活躍のフィールドが広がっている」との見方を示唆した。そして、早速「家庭用蓄電池向け大型セルの事業」を始めているのだ。

 これは、家庭用バッテリーがあれば、昼間の発電分を蓄電しておき夜間に使う、天候の良い日に蓄電し悪天候日に使う、などエネルギーのタイムシフトユースが可能になることを意味する。同様の考え方で電気自動車(EV)を蓄電用に使用する案なども存在するが、EV1台を購入するよりもより安価に入手できる方がエンドユーザーには優しいとの発想。この商用化では、すでに主要なパワーコンディショナービジネスメーカーとタイアップしたビジネスモデルで始動している。

 電子部品メーカーの別事例では、太陽誘電が近年の各地で発生した豪雨災害により河川・内水氾濫での浸水被害が発生した状況を鑑み、災害対策として河川状況を監視するシステムを構築し、防災情報として活用する実証実験を各地方自治体、現地の大学などと協業し相次いで実施している。太陽誘電は持ち前の強みを活かして水位計、冠水センサー、カメラの提供、クラウドシステムの運用などを担い、地方自治体は実証実験実施場所の提供や必要な許認可を担い、大学は災害対策関連の学術的知見に基づく支援を行うなど、適材適所で役割を果たしたコラボレーションが実現している。

太陽誘電が提供する「河川など状況監視システム」(水位計、冠水センサー、カメラなど)設置例
太陽誘電が提供する「河川など状況監視システム」(水位計、冠水センサー、カメラなど)設置例


エレクトロニクス商社も地方自治体・異業種とコラボ

 冒頭で商社の事例に触れたが、1つの事例として、1844年創業、1947年設立の大手老舗エレクトロニクス商社の丸文もエンドユーザー視点からの新たなビジネス提案に挑んでいる。コロナ禍でのテレワーク拡大、コロナウイルス感染症の家庭内感染予防として、「空き部屋をテレワーク執務スペースとして利用したい」「空き部屋を活用したいが管理運営が大変なのは困る」という「お困りごと」を解決すべく、丸文のIoTを活用した空き部屋有効利用実験「入居者限定の空き部屋時間貸しサービス」を行うというものだ。

 横浜市のIoT推進ラボ「I・TOP横浜ラボ」の「新技術による快適な住まいづくり」に関するプロジェクト創出支援に応募・採択され、空き部屋へ機器を設置し、入居者向け貸し出し時のデータ取得などの実証実験が進められる。各種センサーを配置したIoTシステムで利用状況を収集・管理し、空き部屋を安全に有効活用する仕組みの構築・運用が実現することになる。ITに知見を有する専門集団と、地方自治体がコラボレーションした好事例となりそうだ。

 その他、筆者が本年取材で出会った商社だけでも、新光商事では、遠隔操作ロボットで寺院などの床下検査に貢献したり、鳥獣罠にIoTソリューションを設置して鳥獣被害対策へ貢献した事例があった。菱洋エレクトロでは、流通店舗業界や飲食店業界などにおける日々発信される業務指示の実行・進捗状況を紙ベースでのレポートではなくデジタルで迅速に可視化し、現場管理業務を統合化し効率化した事例などに遭遇。また、日々舞い込む商社各社からのニュースからも、同様に従来とは異なる「お困りごと解決」事例があふれている。

自動車業界でもB to B to Cがビジネスの潮流に

 自動車業界では、周知のとおり、トヨタ自動車が静岡県裾野市に実験都市「ウーブン・シティ」を開発するプロジェクト「コネクティッド・シティ」が代表格だ。街の建物はカーボンニュートラルな木材、屋根に太陽光パネルなど環境との調和、サステナビリティーが前提の街づくりを基本とし、住民には室内用ロボットなどの新技術、センサーデータを活用したAIでの健康状態チェックなど、当たり前の日常に先端技術が自然に溶け込む。ゼロエミッションの完全自動走行車が走行し、歩行者とパーソナルモビリティーが共存する道、住民同士のコミュニティー形成スペースの整備など、「ゼロから未来都市・街を作り上げる」壮大な一大プロジェクトとなる。

 そして、豊田章男社長は、「このプロジェクトでは、将来の暮らしを良くしたいと考えている方、このユニークな機会を研究に活用したい方、もっといい暮らしとMobility for Allを私たちと一緒に追求していきたい方、すべての参画を歓迎する」と呼びかけている。未来のエンドユーザー、つまり住民視点が主役となる。「B to B to C」がビジネスの潮流になりつつあるとも言えるだろう。

 こうした大きなトピックのみならず、たとえばアイシングループの最新事例では、愛知県岡崎市でワーク・託児・学び一体の「子育て支援サービス実証実験」を開始し、一般社団法人や英会話のAEONなど異業種の機関・企業と協業し、仕事と子育て・学びが一体となった「つながりステーション」を提供している。

アイシングループは「子育て世代の課題解決」へ子育て支援サービスをトータルプロデュース
アイシングループは「子育て世代の課題解決」へ子育て支援サービスをトータルプロデュース


 また、筆者が拝聴した製品説明会の中には、パイオニアがNTTドコモと協業し、車載専用Wi-Fiルーターを発売する事案があった。遠距離の家族移動時の車中や在宅ワークスペースを車中に求めるサラリーマンなどに、クルマの中でもストレスなき満足なオンライン環境を提供しようとするもの。

 最近の中高生などデジタルネイティブ世代は、いつでもどこでもWi-Fiがつながり、テレビを見るよりもスマホでYouTube、TikTok、友人とのやりとりはLINE、Instagramであり、田舎帰省の道中で電波がつながらないエリアがあることが大人には理解できないほどストレスとなるようだ。まさに「お困りごと」に応えている、と記者業とは別に、一個人として納得してしまった。

 電動化、自動走行を前提に、車室内空間を広く、そしてその自宅の部屋さながらの車室内空間で過ごすドライバー、乗員への新たなHMI提案、IoTを駆使したサービスの数々など、ハードとソフト、クラウドが融合したあらゆる業種のコラボレーションによる新たなB to B to Cのビジネスの潮流が自動車業界内でホットになってきている。

機微技術の安全保障徹底もコラボレーションに必須な要素

 さて、こうした躍動感を感じていた折、10月に久々のリアルイベント「名古屋オートモーティブワールド2020」(リードエグジビションジャパン主催)の基調講演で、衆議院議員の甘利明氏の講演を拝聴する機会があった。自由民主党税制調査会長であり、MaaS推進議員連盟会長、新国際秩序創造戦略本部座長でもある甘利氏からは、目の覚めるような見解の数々が語られたが、詳細は割愛する。

 その中で自動車業界動向では前述のトヨタの「ウーブン・シティ」についても、「ものづくりの発想から離れて、どういうことが存在価値を持つか、を豊田章男氏は考えている」とその取り組みに賛同する言及や、テスラのEVがOTA(Over the air)を実現している実態についても、車の制御が外部制御であり、セキュリティー面など慎重に進める必要があることなどのコメントも聞かれた。

 こうして話が進行するなかで、ふと考えさせられる視点があった。「日本にはセキュリティークリアランス制度がない」という指摘。たとえば研究しているテーマが外交や安全保障に関する重要秘密を伴う技術だったりした場合、そこに参加・コラボレーションしているメンバーがスパイではない適格者である、という明確な審査軸などが米国のように民間企業にまで適用されてはいないという実態がある。機微技術の技術安全保障を徹底する必要がある、と甘利氏は力説した。

10月に名古屋で開催された「オートモーティブワールド2020」で講演する甘利明氏
10月に名古屋で開催された「オートモーティブワールド2020」で講演する甘利明氏

 コラボレーションがビジネスの潮流であることは前述のとおりであり、そのことは歓迎すべき流れだ。一方で、国境を越えたコラボレーションも常なグローバル化した現在にあって、技術の流出を阻止する仕組みを徹底したうえでのコラボレーションが求められていることも意識しなければならないだろう。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」(鴨長明著『方丈記』より)。横並びを良しとし、出る杭は打たれていた時代から、自ら行動し、自ら課題を見つけ、提案し、仲間と集い、新規ビジネスを創出していく自主性が問われる時代が到来している。新型コロナなど予想外な流れが舞い込むなかでも、エンドユーザー視点に新たなヒントが必ずあるはず。新たなチャレンジにはエネルギーを要するが、皆が「お困りごと」を見出そうと意識し、それを実現するための解を共に考え、提案し続けていく先には、全く新しい時代、世界が広がっていくことだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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