電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第22回

シェールガス登場で「ニッポンの素材力」活性化


~材料ガス、炭素繊維などに大きな利得をもたらす~

2012/12/14

 「なんだかわからねぇけど、米国向けの窒素の出荷量は、確実に増えてきたんだ。シェールガスの採掘に使われていることは間違いない。しかし、多くはベールに包まれている。よくわからねぇ」

 筆者が親しくする材料ガス大手メーカーの役員の言葉である。この人は下品であるが、頭は非常に切れる。あるところで切れすぎるほどであり、爆裂して止まらないことも度々だ。開発に携わっている人の特徴は、えてして回路が飛び飛びになることだ。一般常識ではこういう人を変態と呼ぶのであろうが、R&Dの世界では天才と呼ばれる。

 それはさておき、この役員の言うとおり、世界的に窒素の出荷量は増えている。もしかしたら来年は、とんでもないことになるかもしれない。要するに作っても作っても足りないとなる可能性もあるのだ。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、ガス業界の専門紙として定評のある「ガスレビュー」の編集長、林佳史氏と筆者の本家である横浜の蕎麦屋で天ぷらを肴に酒を飲んでいたときに、小さな声でこうささやかれた。
 「シェールガスの排出メカニズムで重要なことは水圧破砕であり、大量の水を必要とする。ここで出てくる大量の排水を減らすためには、大量のバルクガスつまりは窒素を必要とするんだ。つまりは、窒素と水をまぜて使うことで、水の量を半分に抑えられる。しかして、この窒素の量たるや、半端ではない。ガス屋にとっては万歳三唱だ。笑いが止まらない」

 笑いが止まらないのは、ガス屋ばかりではないだろう。ニッポン期待の炭素繊維については、航空機需要や自動車への展開が広がってきており、東レ、帝人、三菱レイヨンなどが積極的な設備投資計画を次々とアナウンスしている。何しろ、炭素繊維は日本勢が世界で7割という圧倒的なシェアを持っているのだ。
 ここで重要なことは、炭素繊維は自動車、航空機に加え、天然ガスを入れる圧力容器などに飛躍的に用途が広がっているのだ。つまりは、天然ガスの一種であるシェールガスの爆発的な開発が進めば、この圧力容器の需要が急増し、炭素繊維メーカーに多くの利得をもたらすのだ。また、液化天然ガスを気体に戻していくことについても日本企業は圧倒的な力を持っている。住友精密はこの分野で世界シェア70%を持っており、神戸製鋼も同20%を持つ。シェールガスブームが到来すれば、こうした循環サイクルビジネスも急拡大していくことだろう。

 一方、シェールガスを使って化学品の素材を低コストで生産するという動きも強まっている。旭化成は合繊、エレクトロニクス、自動車などに使う樹脂の中間原料であるアクリロニトリルの原料を天然ガスから作る技術を確立した。アクリロニトリルは一般的には石油から作られるが、新たに開発した触媒を使い、天然ガスから作ることに成功したものであり、もちろんシェールガスにも応用できる。品質は石油から作ったものに比べてまったく遜色がなく、かつシェールガスは原油価格の6分の1という安さであるために、低コストで量産が一気に可能となるのだ。また、クラレはシェールガスから取り出したエチレンを使い、液晶パネルなどに使われる樹脂を生産する新工場を2014年にもアメリカに建設することを決めた。

 世界に冠たる「ニッポンの素材力」に、こうしたシェールガス関連のビジネスが徐々にではあるが、噴出してきた格好だ。いずれは、半導体、電子部品、重電機器などの分野にもシェールガス革命の利得が広がってくるだろう。

 ところで、「シェールガス革命って面白そう。もっと詳しく知りたいものね」とおっしゃる方に、泉谷クンは格好のクリスマスプレゼントをお贈りしたいと思う。すなわち、泉谷クンにとっては20冊目の本がいよいよ書店発売となる。
 タイトルは『シェールガス革命で世界は激変する』(東洋経済新報社 定価1500円+税 泉谷渉/長谷川慶太郎の共著)。
 年末年始の読書の一冊に加えていただければ、誠にありがたいですう。

シェールガスを勉強する人には一番の本だよ
シェールガスを勉強する人には一番の本だよ

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