商業施設新聞
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No.390

異業種交流とオフィス開発


笹倉 聖一

2012/12/4

 机や椅子などのオフィス家具を開発・製造する(株)イトーキ(大阪市城東区)は、東京イノベーションセンター「シンカ(SYNQA)」を東京都中央区京橋に開設し、関係企業に披露した。従来の製品展示型ショールームとは異なり、同社の取引先などが自由に集い、場所を共有して、新ビジネスを創出する共創型事業開発拠点にするのだという。イトーキとシンクロナイズ(同調)してシンカ(進化)する意味を込めて命名した。

 社長の松井正氏は「イトーキは家具の開発・製造で生き延びてきた。今後は単にモノを作るだけでは生きていけない。そのため、知恵や知識、情報を外部から広く集め、共創して価値を創造する。スマートメディア、SNS(ソーシャル ネットワーク サービス)という新たな社会環境が進展する中で、顧客の価値観が多様化、高度化している。ICT(情報通信技術)を作る場所ではなく、ICTをデザインする場所を形成したい」と開設の式典で挨拶した。
 また「オフィス家具は、首都圏の新築需要、東北地方の復興需要はあるものの、日本の製造業は閉塞感が漂っており、次の形を模索することが必要になっている。そのために、企業の枠を越えたプロジェクトの場、ゆるやかにつながる支援ツールが重要になっている。シンカでは、新しい共創ビジネス、フラットな議論の場、新しい働き方の形を提案し、これにより新ビジネスの作り方、今までになかった新しい形を顧客に提供したい」と述べた。

 言葉だけでは形が見えずよくわからないが、新しい通信技術、メディアサービスを使って、新たなオフィス開発を模索したい思いは伝わってくる。現に同社は、様々なメディアデバイス(スマホ、タブレットPCなど)と接続でき、また無線受給電できる装置を備えた事務机を開発している。

 今回、開発拠点の門戸を外部に広く開放することで、知の交流を内部交流型から外部交流型へ進化させた。同社は、執務に取り組み易い事務机や椅子を開発・製造することで、様々な産業と交流がある。

シンカに設置した部屋
シンカに設置した部屋
 お披露目したビルは相互館110タワーという名前で、3階建て延べ3392m²。シンカは2階(1389m²)に設置され、セミナールーム(150席)、プロジェクトルーム、プロジェクトブース、160インチシアタールームで構成される。今後ここで何が共創されるのだろうか。イトーキには今後の成果を公表してもらいたいものだ。シンカと同じ2階には、病院や医療機関向け仕様の机など、新たに開発した器具が展示されていた。

 同ビルの3階(1419m²)は、同社の京橋オフィスとなっており、職場で勤務しながら健康維持を図るオフィス家具や空間を実証実験する区域を設けた。オフィス内で歩幅を制御しながら歩行できるような印を床に打ったり、健康に良い姿勢を保ちながらPCと向き合えるようにカウンター机などを備えた。体重や視力をオフィス内で測定できるようになっている。
 夜には過度な残業をしないように、デジタルサイネージで家族団らんの光景や、居酒屋の楽しい雰囲気が放映され、仕事を早く終えて帰りたくなる雰囲気が醸し出される仕組みも演出。説明員は「当社社員の肥満が少しでもなくなれば、実証実験は成功とみなされる」と冗談めかして言う。

 1階(584m²)は外部交流スペースとなっており、サテライトオフィスカフェ(30席と40席)、ブランディングギャラリー、オフィスチャネル(55インチ)が装備されている。ここでは、法人会員制の異業種交流会などを開催する。

開発向けの異業種交流机
開発向けの異業種交流机
 日本のモノづくり産業は、海外市場での価格競争などで遅れをとり、製品の単体売りでは勝ち残れない状況になっている。そのため、経済産業省などは都市機能や都市基盤技術を丸ごとシステムとして輸出し、勝ちに出ようと旗を振る。その際には、一企業の技術、製品、ノウハウだけでは事業化できないため、複数の会社で企業連合を組む動きが活発化している。このような動きは、今後様々な産業や事業で起こるのだろう。これは、製造業に限った話ではなく、流通産業にも直結してくる。そんな時に異業種交流型ビジネス共創の空間は有益になる。

 異業種交流に加えて、働く人の健康維持は欠かせない。健康を保つ新しい働き方、オフィス家具のあり方でも、新開発の成果を早く見たいものだ。
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