電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第20回

「今はとっても幸せです」という若者たち


~しかして、経済の内需型転換には若者の知恵がいるのだ~

2012/11/30

今こそ勇壮な若者の力が必要だ(相馬野馬追の風景)
今こそ勇壮な若者の力が必要だ
(相馬野馬追の風景)
 ここ数年のことであるが、半導体関連のカンファレンスに行けば、白髪頭のおじさんたちがいっぱいいて、若者たちがほとんどいない、という現象に出くわす。筆者も行政や企業から講演を頼まれることが多く、講演後のQ&Aとなったときに、会場からひとつの質問も出ないというシーンがたびたびだ。たまにあったとしても、かなり年配の方が無理に質問する程度であって、眼をギラギラさせた若者から質問を受けるケースは非常に稀なのだ。

 かつて半導体プロセスエンジニアとしてならした人が、国際学会を多く回って深くため息をつく。アメリカに行っても、ヨーロッパに行っても、中国に行っても、また日本国内であっても多くの外国の若者が次々と質問するのに対し、日本の若者は沈黙したままなのだ。

 「覇気が感じられない。動物的な肉欲がない。眼にみなぎる力がない。何よりも、何としても開発してみせる、作って見せるという気概が少ないとしか見えない」
 筆者のように多く講演をこなす著名な大学教授の感想である。しかしながら、こうした現象はよく考えてみる必要があるのだ。一般的には、ゆとり教育の弊害、日教組による偏向教育の現れ、自発性を伸ばす教育システムの欠如などが叫ばれ、そのために若者たちは自分で考え、自分で行動する力が小さくなってきた、と指摘している。

 しかしてそうだろうか。大体が中高年から老人に至るまで、したり顔に若者の批判をいうが、かつて彼らも若者だったのだ。年上のものが若者を批判するというのは、古今東西ありがちなことであり、4000年の昔からそれは変わっていないという文献さえある。

 よく考えてみれば、明治維新にしろ、産業革命にしろ、ロシア革命にしろ、世の中を革命的に変えていく原動力は、常に若者の力だ。中高年による革命など聞いたことがない。いつの世にあっても、新分野を切り開いていくのは若者たちなのだ。太平洋戦争の焼け跡が残る中から若者たちがソニーを作り、京セラを作り、ホンダを作っていった。

 最近の若者に「現状に不満がないですか」と質問をすれば、かなりの若者がこう答えるという。「今はとっても幸せです。それほどの不満はありません」。現状を変えたくないという保守意識が強く、周辺の人たちを巻き込む革命的闘争など真っ平ごめん、という気風がうかがわれるコメントだ。確かに、ワーキングプアといわれる人たちですら、白いご飯に牛肉をかけた食事ができるわけだから、何をもって貧しく不満があるといえるのか。

 ところで、筆者は常に若者たちに期待している。将来を切り開くのは決して中高年ではなく、粗野で猥雑で未熟な若者たちの力が、この日本にはどうしても必要だからだ。しかしながら、半導体をはじめとするITの世界で画期的な開発成果が出たときに、そのエンジニアを訪ねれば、ほとんどが中高年であることに驚かせられる。何が何でもという開発スピリッツはやはりハングリー精神に裏打ちされている。そこそこに食べられて、そこそこに着飾って、そこそこにプチ幸せ、という感想を述べる若者たちが増えれば増えるほど、ニッポンの将来が危ない、と思えてならない。

 ここに来て、半導体/ITの驚くべき後退現象があり、自動車や電機など輸出産業に頼っていては日本経済はもたない、という声もある。今こそ輸出型から内需型への産業構造の転換を図らなければならないという意見も多い。
内需型の成長産業としては、医療産業、環境エネルギー、商業流通、外食産業、アミューズメント産業、美容産業、不動産開発など様々なものが挙げられる。どうしても買いたい、という商品の開発が今こそ必要なのだ。たいがいのモノならほとんどの人が持っており、消費意欲がわかないという現状を打破しなければならない。日本人は金を使わなくなったわけではない。使うべき魅力ある商品が出てこないのだ。そうしたサプライズの新製品を開発するのは、なんといっても若者たちの肩にかかっている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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