電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第18回

どこまでもアメリカ、いつまでもアメリカがキーワードか


~日本の最大の輸出先は中国からアメリカに交代~

2012/11/16

中国は日本にとっての最大の輸出国であったのだが……(上海の街角)'
中国は日本にとっての最大の
輸出国であったのだが……(上海の街角)
 注目されたアメリカ大統領選の結果は、激戦が予想された割に、かなりの差をつけてバラク・オバマ氏が当選してしまった。アメリカの共和党好きの女性たちは、ロムニー氏の優しい笑顔に酔いしれ、ずっと肩を抱かれていたい、と思っていたかもしれない。しかして、国民はオバマ氏を再び選んだのだ。考えてみれば、それほどの大きな失策はなく、先の大統領就任時に8000ドル弱であった株価が現状で1万3000ドルを突破しているのであるから、オバマ氏は経済政策をそれなりにやってきたといえるだろう。

 ところでアメリカ国民はすでに気づいていることだろうが、オバマ氏の政策は微妙にかつ巧妙に変化している。太陽光発電やリチウムイオン電池など新エネ/省エネを訴えるグリーンニューディール政策を打ち出していたが、この雲行きが怪しいとみたとたんに、方向転換した。つまりは新エネ/省エネの発言をほとんどしなくなり、これに代わってシェールガスなどのエネルギー革命をアメリカは積極的に主導すると言い出した。ご存知の通りシェールガスはkWhあたりのコストがたったの6円であり、石油の10円よりもはるかに安い。アメリカはこれを掘り出す手法を、世界に先駆けて確立しただけに鼻息が荒い。グリーンニューディールよりシェールガス革命だ、という世論がアメリカを覆いだした。

 シェールガスの安さは全てを変えてしまうかもしれない。エネルギーコストが低下したことにより、アメリカ企業が欧州やアジアに展開していた製造拠点をアメリカ内に移す、という動きがかなり表面化してきた。ある意味で、ものづくりアメリカの復活を宣言する出来事なのだ。もちろん、工場が本国に戻ってくれば、雇用にとって大いにプラスに働くわけだから、オバマ氏がひたすらシェールガス革命を強調するのも無理はないだろう。

 低廉なシェールガスを手に入れたアメリカでは、自動車産業が再び活気づくといわれている。これまでコストの安い国に作ってきた自動車工場を再びアメリカ内に建設するという計画も浮上してきた。アメリカの自動車メーカーに多くの電子部品、半導体、ディスプレー、さらには各種の自動車素材を提供してきた日本にとって、アメリカ内における投資活発化はよくよく注意してみなければならない。

 第一生命経済研究所によれば、今年4-6月期の日本の輸出額は中国向け2.9兆円に対しアメリカ向け3兆円で、なんと3年半ぶりに輸出先の首位が交代した。中国の成長鈍化は明らかであり、中国向けの電子部品や基礎素材の輸出が落ち込む一方で、アメリカ向けの自動車部品やシェールガス採掘向けの鉱山用機械が伸びた。
 このままでいけば、2012年通期においても、日本の輸出において米中再逆転となる公算が大きい。つまりは、輸出を中心とする日本企業にとって最も重要な国が再びアメリカになるのだ。

 「尖閣諸島問題であれだけ屈辱的な対応をされても、言いたい放題の慎太郎ちゃんを除けば、日本国民はみな耐え忍んできた。その裏には日本の最大の輸出国を怒らせてはいけない、という意思が働いている。しかしながら、日本の輸出先の首位交代は、政治的にも経済的にも重要な出来事となる。やっぱり、アメリカ。いつまでもアメリカ。こんな思いが再び日本人の心に忍び込んでくるかもしれない」
 ある政府系機関の要人がふと漏らした言葉である。ぺろぺろと中国の足をなめて「ご主人様」と叫んでいたのに、今度はアメリカに向けて「やっぱりあなたが好き!!」と媚のある眼で誘わなければいけない、のかもしれない。それにしてもアメリカ企業が中国工場を本国にカムバックさせるというのであれば、わが国ニッポンが同じ動きを見せてもよい、と考えるのは筆者だけであろうか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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