日本3大ブスといわれる都市はどこか。それはA市、B市、C市が定説となっている。筆者はこれらすべての都市名を知っているが、ここで書けば多くの人たちの怒りを買うことになるので、あえて伏せておきたい。
ところで、この逆となる日本3大美人といわれる都市はどこか。実のところ、これには定説がない。筆者の独断と偏見によれば、京都、金沢、熊本がそれにあたると判断しているが、読者の皆様はどうお考えであろうか。大体が江戸時代初期からまったく藩主が移動しなかった県には美人の遺伝子が残っていく。ところが、藩主が移動し、多くの美人を引き連れていけば、残された土地にはブスの遺伝子が残る。これが美人と不美人を分けるポイントであると、さる人から教えられたことがある。
さて、1200年の歴史を持つ古都である京都には当然のことながら、美人の遺伝子が長く残っている。街を歩けば、はっと振り向かされるひとに出会うこともたびたびだ。端正な顔立ち、上品な振る舞い、鼻にかかったような柔らかい言葉、匂い立つようなお姿、何をとっても京都の女性は超一流だと、まずはほめておこう。
また、この街には不思議なもうひとつの魅力がある。世界遺産となっている多くの古い建造物が残っているが、空襲を受けなかったために、時代ごとに点在していることがすばらしい。平安、室町、江戸の各時代の建物を賞味できると同時に、明治、大正、昭和の重要文化財クラスの建物を同時に味わうことができる。おそらくは、世界広しといえども、こうした時代を超えるトリップができる街は京都だけかもしれない。筆者は先ごろもあてどなく京都の町を放浪したが、この時代トリップに酔いしれ、頭がクラクラして座り込んでしまったら、優しい女性から「どうかしたのですか」と声をかけられる僥倖に恵まれたのだ。
それはさておき、わが国随一の古都である京都にはユニークな企業が数多い。いまやJALを立て直したことで一大評価を受けている稲盛一夫氏が創業した京セラ、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が勤務する島津製作所、ハードディスクの駆動用モーターで世界シェア8割を握る日本電産、さらには車載向けリチウムイオン電池で技術・量産ともに世界トップを走るGSユアサなど、実に独自色が強い世界的企業が存在している都市、それが京都なのだ。
京都企業の最大の特徴として、自分たちにしかない強みを持っており、一つとして他社のまねをする企業はない。つまりは、独創性が最大の武器なのだ。四方を山に囲まれた京都の土地は狭く、大量生産を行う大型工場は作れない。つまり京都では小さな工場で多品種少量生産を行って付加価値の高い製品を生み出さなければならない。そしてまた、数百年間も存続する陶磁器、木工、織物、染色、金細工などの伝統産業がある。きめ細かな作り方、品質絶対重視の気風が強い。世界の流れが価格・コストから品質・高付加価値に移ってきた情勢は、京都企業の時代の到来を意味するのだ。
京都発のベンチャー企業も数多い。半導体・電子部品のメーカーとして、いまや上位にランクされ、しかも高収益体質で知られるローム。自動車の排ガス計測機器でぶっちぎり世界8割のシェアを握る堀場製作所。京都の伝統産業である焼き物を土台にセラミックコンデンサで世界トップの4割シェアを持つ村田製作所。ベンチャー精神にあふれた制御機器大手のオムロンは近年では液晶TVバックライトで世界シェア2割を握る。
iPS細胞でノーベル賞を受賞することが決まった山中伸弥教授もまた京都大学の出身であり、チャレンジ精神に富む京都のスピリッツを代表している。ちなみに山中教授は手術が下手で、かつてジャマナカとまで呼ばれていた。その落ちこぼれ人生から起死回生の逆転となる世界的な技術と発見を成し遂げた。
伝統を革新に変えるという斬新なモデルもある。任天堂はバリバリの100年企業であるが、かつては花札、トランプの大手であった。それがいまや世界一の電子ゲーム機メーカーに転身した。また、赤穂浪士の討ち入りの2年前に作られた福田金属箔粉は、いまや携帯電話に使う電解銅箔で世界トップのシェアを持つ。伝統手法を先端ハイテクに活かすというウルトラ技がここにある。
ところで、少し前のことであるが、さる京都の企業から茶席に招かれた。もちろん、そこは一見さんお断りの祗園。綺麗な舞妓さんの踊りを見ていたら、またしても頭がクラクラしてきて口をぽかんと開けていたら、隣の人から耳元にこうささやかれた。
「ええやろ。これを見たさに、こうした遊びがしたくて、わいらは一生懸命働くのや。祗園に来たくて鬼のように働く。これで京都企業はみんな頑張るのや」
これもまたひとつの理由なのだなと思い当たった。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。