(株)ディスコ(東京都大田区大森北2-13-11、Tel.03-4590-1111)は、半導体切断研削装置で世界シェア7割を誇るリーディングカンパニー。半導体製造に必要不可欠な「切る・削る・磨く」の領域で、高度な技術力を有する。先ごろ、約110億円を投じ、桑畑工場内に新棟を建設することを発表するなど、製品需要も拡大している。今回は、同社の生産拠点の中核である広島事業所(呉工場、桑畑工場)についてレポートする。
■独自の改善活動を推進
今回、両工場を訪れて、特徴的だったことは、生産の効率化ならびにBCM(事業継続管理)の取り組みを徹底している点だ。
同社では、2003年からPIM(Performance Innovation Management)活動という独自の業務改善活動を開始。ダイシングブレードなど、精密加工ツールを主に製造する呉工場(広島県呉市広文化町1-23)では、出荷された製品をすぐに仕掛ける「プル生産方式」の採用や、担当営業を介さず生産現場に直接注文が入る体制を構築するなど、その事例には事欠かない。また、同工場内で12年1月に竣工した生産棟(C棟)では、検査や搬送工程の自動化を強化・推進し、生産および製品出荷時のミスを大幅に低減することを実現している。従業員の改革意識も高く、精密加工ツール製造を担当する精密ダイヤ製造部(12年9月時点で881人)では、従業員からの改善提案書が、11年度だけで1万2581件提出されている。
これらの取り組みの結果、精密加工ツールの不良率は以前の10分の1に減少。また仕掛数が5分の1に、生産着手から完成までの時間も5分の1にそれぞれ低減しており、円高が続く現在の状況下において大きな下支えとなっている。
桑畑工場(呉市郷原町4010-1)では「デジタル屋台」と名づけたシステムを導入している。これは、スキルを問わず誰でも、PCの指示に従うことで、装置に組み込むユニットの組立作業ができるシステムであり、増産による増員時に作業指導に時間が割かれ、生産効率が落ちるという問題の解決に貢献した。また、PCと連動した自動回転式補材棚や独自のトルクドライバーを設計。さらには、装置生産に使用するチューブの加工装置までも自社開発し、大幅な時間ならびに不良品率の低減を実現している。
■BCMS規格を国内で初取得
自の効率化策を推進している
(写真は桑畑工場内の
製造ライン)
BCMに関する取り組みとして、主要製品を製造する呉工場2棟(B棟・C棟)と、桑畑工場(A棟)、そして建設を発表した新棟で免震構造を採用。現在、精密加工ツールの一部は、リスク分散の観点から桑畑工場の旧棟(非免震構造)でも製造しているが、新棟完成後は、その生産機能を移管する予定であり、結果、すべての製品が免震棟で生産できる体制が整備されることとなる。
また、呉工場では、津波対策として、防潮区画を設置。加えて、1階には重要な設備を置かないなどの工夫を凝らしている。さらに、感染症などのパンデミックに対しても独自の対策を講じているほか、電力が停止した際の対策なども検討を開始している。生産面では、呉工場において、精密加工ツールの原材料6カ月分を備蓄しており、製品レベルでは数千種類単位、計数十万枚の完成品が常時出荷できる体制を構築している。
これらの取り組みが認められ、08年12月に、BCMS(事業継続マネジメントシステム)の実施的な国際規格である「BS25999-2:2007」を国内半導体業界で初めて取得。そして12年5月には、BCMS規格「ISO22301:2012」を国内企業として初めて取得している。
初めに記したように、同社は半導体切断研削装置の分野で世界シェア7割を占める。その要因には、技術力や製品の信頼性、顧客ニーズに対する対応力など様々な点が挙げられるが、今回の訪問で見た生産の効率化ならびにBCMへの取り組みにも、その高シェアの一端を見た気がした。