週末の金曜日に上野から御徒町を歩いてみて、ドギモを抜かれた。誰もマスクをしておらず、ソーシャルディスタンスなどはどこ吹く風という人たちがはしゃぎ回っていた。そしてまた、イチャツキのカップルは体をすり寄せるようにして嬉しそうに手をつなぎ、湯島方面のラブホを目がけて歩いていたのだ。
コロナの話などはほとんどしていない。酒をおいしく飲むコツは、何と言っても職場の上司・同僚の悪口、イケメン、いい女などをサカナに放言、暴言を振りかざすことなのだ。古今東西、これだけは変わらない。交わされている会話はほとんど次のようなものだ。
「あのバカ社長はさあ、パソコン全くダメ。テレワークなんかできない。いつも青ざめているのよ。ざまあみろ!と言いたいわよ」
「たかが駅弁大学出たくらいで、いつも上から目線の女だな、アイツは。生意気なヤローだぜ。そのうち、裸にひんむいてやるぜえええ」
「仕事できないヤツに限って、自分はできると思っているのよ。笑止千万とはこのことね!」
「会社のためにガンバルっていうヤツは、大抵はウソつきだ。てめえの利害損得しかないくせに」
それにしても、久方ぶりに大衆のパワーの恐ろしさを見てしまったという感想であった。確かに日本の場合、ここに来てコロナ第2波の収まりも見えてきて、映画も演劇も野球観戦も事実上、「密」を容認している。Go Toトラベルキャンペーンもすさまじい勢いで利用され始めた。そして何よりも上昇する消費パワーはすべてに勝るクスリなのだということを痛感した。
IMFをはじめとする多くの公的機関、ファイナンス筋は2021年の景気を超楽観視し始めた。長い期間にわたって自粛をしいられた結果としてリベンジ消費、つまり報復的な金の使い方が始まると見ているのだ。第二次世界大戦、世界大恐慌など過去の歴史を見ても、一気の景気後退の後に、すさまじい景気上昇が巻き起こるのは必然的な現象なのである。
つくづく考えてしまうのは、人間というものはいつも群れたがるものであり、感動を多くの人たちとともに共有したがるものであり、直接的なコミュニケーションを結局は望んでいるということなのだ。それは「生物」としての人間の自然の「摂理」であり、半導体によって飛躍的に拡大したコンピューティング、超高速通信、高精細映像技術を持ってしても、人類の長い長い歴史の集積の上にある行動原理には勝てないのだ。
確かに、新型コロナ対策で「密」を回避することは重要なルールであった。しかしながら、ポスト新型コロナにあっても、それがずっと続く新たなライフスタイルとはとても思えない。「密」は人間としての自然な欲求であり、人と人のつながりを断ち切ってしまう新たな幸福論などはまずもって成立しない。むしろ、半導体技術をフル活用しながらも、ライブとしての「密」を楽しみ、触れ合うことの「優しさ」を実感する新時代を切り開くべきだ、と思うのは筆者だけであろうか。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。