創業85周年を迎えるTDK(株)(東京都中央区日本橋2-5-1、Tel.03-6778-1000)は、「創造によって文化、産業に貢献する」を社是に、デジタルとエネルギーの変革に貢献しながら、新たな社会的価値を創造し続けている。2020年3月期の全社連結売上高は1兆3630億円を誇り、このうち4割強を占めるエナジー応用製品、約3割の受動部品を二本柱に、センサー応用製品、磁器応用製品なども含め、電子部品業界の雄として世界で圧倒的存在感を堅持する。1982年に同社へ入社し、HDD磁気ヘッドやセンサービジネスなど数々の実績を重ねた後、2016年6月から代表取締役社長として同社を率いる石黒成直氏に、あらゆる角度から話を伺った。
―― エナジー応用製品は増収増益ですね。
石黒 2次電池の伸長が追い風になっている。当社はパウチ型に特化しており、主力市場のスマートフォン(スマホ)向けで高シェアを維持している。足元はコロナによるスマホ生産台数減少の影響を若干受けているが、期初予想よりも若干上ぶれで推移しており、リモートワーク/リモートラーニングによるタブレット端末、ノートPC需要拡大、巣ごもり需要によるゲーム機向け、ワイヤレスイヤホンなどのウエアラブル向けミニセル販売の好調なども追い風となった。
―― 強さの秘訣は。
石黒 まず、Time to Marketという観点では、各スマホメーカー様の次世代機種向けの先行開発につながるような対応が重要である。そして、Time to Volume、つまりお客様が必要とされる数量を量産できる力も当社の強さと言える。近年はBCP(事業継続計画)を考慮した量産体制を構築できているため、もし急な増産依頼があっても問題なく供給でき、お客様との信頼関係は厚い。
さらに、一般的に2次電池は材料面で発火リスクなどがあり、品質が最も大切だ。この点でも長年の実績を生かしている。こうした正の回転が働いていることが強さの秘訣かもしれない。おかげさまでスマホ向けリチウムイオン電池(LiB)では世界市場で活躍できる状態になってきた。
―― スマホ市場の先行きをどう見ますか。
石黒 スマホ自体が減っていくことは考えにくい。スマホが担うべき社会のファンクションは増えており、生活のあらゆる場面に入り込んでいるからだ。5Gが本格到来すれば、ますますスマホが担う役割は高まる。一方で、人間とのインターフェースデバイスはスマホだけに頼る利便性から、スマートウオッチなどウエアラブルを含めた多様な通信デバイスに切り替わっていくだろう。こうした未来に向かうとしても、世界的にバッテリー用途は無くなるどころか、むしろ拡大するだろう。そして、当社がスマホ市場向けの2次電池で築いた前述の正の回転はここでも活きると見ている。マクロ的視点から言えば、スマホはPCに続く歴史的な産物だろう。
―― 次なるエナジー応用製品にも着手しています。
石黒 最近「熱とノイズは仕事の宝だ」と社内にハッパをかけている。熱もノイズも無駄になるから放出されるものであり、無駄を無くせばエネルギー消費量も削減できる。ここに電子部品メーカーとしての当社の活躍のフィールドが広がっている。
早速、新規の取り組みとして、家庭用蓄電池向けの大型セルの事業を始めた。エネルギーのタイムシフトユースに着眼し、昼間の発電分を蓄電しておき夜間に使う、天候の良い日に蓄電し悪天候日に使うなど、家庭用バッテリーがあれば需給バランスがとれ、タイムシフトの使用が広がると判断した。太陽光発電の買電価格下落に伴い、発電分を電気自動車に蓄電する案もあるが、自動車よりも安価な蓄電池があれば理想だ。すでに主要なパワーコンディショナーメーカーとタイアップし、ビジネスを開始している。20年にはまず数十億円規模とし、30年には3桁億円規模にしたい。データセンターにしろ、電力供給、電源という部分に大いに着眼している。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2020年10月15日号1面 掲載)