電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第400回

「みんなが反対する開発ならば、それは成功することも多いのだ」


~元ソニー中央研究所長の渡邉誠一氏が語るソニースピリッツ~

2020/9/18

 「いまやソニーの屋台骨を背負っているゲーム機ではあるが、プレイステーション開発の折には、役員はおろか、部長クラスに至るまで多くが反対していた。そんなものにソニーは手を出すべきではない、との意見もあった。しかして、ソニーの開発の歴史を見てみれば、みんなが反対するものの中にも、きらめく宝石が隠されていると思えてならない」

もとソニー中央研究所長の渡邉誠一氏
もとソニー中央研究所長の渡邉誠一氏
 かくしゃくたる様子で、はっきりとこう語るのは、ソニーの元中央研究所長である渡邉誠一氏である。渡邉氏は、日比谷高校を出て東京大学工学部電子工学科を卒業し、同大学院を経て、1967年にソニーに入社する。厚木の開発部に長く所属し、様々な半導体の開発を手がけた。とりわけ、高周波4極MOSFETの開発は画期的なものであり、多くの人たちを驚かせたのだ。1986年には汎用半導体事業部長に就任し、1989年にはかの著名な菊池誠氏の後を受けて、栄えある中央研究所長に就任する。

 「私は数々のヒット作となる製品の基礎を生み出した中央研究所を率いることになった時に、ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書をみんなに配った。太平洋戦争に負けて、国土は焦土と化し、食べるものも着るものもないなかで、世界に先行する技術だけが日本という国を救っていく、という井深大氏の考え方は素晴らしいものであった。そして、寝ることも忘れてのめり込む仕事の面白さを教え、世界一愉快な工場を作ろうという檄を飛ばし、社員を奮い立たせたのだ」(渡邉氏)

 遠くを見るような視線で渡邉氏はその頃を回顧するのであるが、ソニーの立役者であった井深大氏、盛田昭夫氏、岩間和夫氏などを若き日に仰ぎ見ていた同氏は、ソニーがビッグカンパニーになっていくその時代の文字どおり、真っただ中にいて、体験した人なのだ。ちなみに渡邉氏は、中央研究所長を務めた後に取締役に昇進し、セミコンダクターカンパニープレジデントなどを経て、執行役員上席常務にもなった。ソニーを退いた後は、テルモの理事、東洋大学の客員教授なども務めた。そして、社団法人科学技術と経済の会の参与、センサー&データフュージョン研究会委員長、健康増進ネットサービス合同会社代表社員などの仕事を現在に至るまで続けておられる。いまだバリバリの現役なのである。

 ところで、渡邉氏に井深大氏の印象を聞いたところ、こちらが予想したとおりの答えが返ってきた。

 「とにかく井深さんは若い人の言うことを聞きたがる人であった。中央研究所の新棟を建設した時に、モニュメントを作ったのであるが、なんと井深さんは車いすで来られた。このモニュメントには、井深さんの言われる“創造の価値は不変である”と書かれているが、これぞソニースピリッツなのだ。ソニーという会社の素晴らしさは、事業にならなくても価値はある、と考えていることだ」(渡邉氏)

 よく言われているように、ソニーの良いところは、自由闊達であり、ボトムアップのカルチャーであり、一発逆転のホームランを狙ってブンブン振り回す社風であり、数え上げれば実にユニークなことが多い。筆者は、19年12月に『伝説 ソニーの半導体』という本を執筆し、上市したが、この渡邉さんの語る言葉は、この本の全編を貫くコンセプトとなっており、深くうなずくところがあったのだ。

 プレイステーション開発のところも随分と書き込んだが、圧倒的多数が反対するなかで、当時社長の大賀典雄氏と渡邉氏は賛成した、ということは知らなかった。誠にもって、この2人の慧眼は恐るべし、ということであろう。

 「ソニーの半導体は自社で使う内作向けが常に重視されていた。しかし私は、ひたすら外販を強化しろ、との考え方であった。世界すべてで売ってこそ、本当の半導体の力がつくと確信していたのだ。そして、後の世を切り開くような画期的な開発は、えてして反対されるものだ、ということも真実である。ソニーという会社は、いつでもその反対論を乗り越えてやってきた。メガヒットを放ったウォークマンでさえ、社内には反対論が渦巻いていた。それでも製品化をリードしていった盛田昭夫さんの決断力はすごかった。このソニースピリッツは今も、若い人たちに引き継がれていると信じてやまない」(渡邉氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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