電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第395回

400兆円の巨大市場を持つ自動車産業はズタズタ、コロナ禍で2020年は20%減


~しかしてトヨタはぶっちぎりの強さ、6年ぶり世界首位奪還、中国攻略推進~

2020/8/14

 コロナ戦争とも言うべき異常事態はとどまるところを知らない。世界における感染数は驚くなかれ、2000万人を突破するほどの状況となっており、死者数もまた80万人に近づきつつあるのだ。それにしても、米国の死者数はベトナム戦争と朝鮮戦争を合わせた数を大きく上回っているというのに、多くの海岸では肌も露わにしたお姉さまたちがいちゃつき、男たちも一杯唾を飛ばしながら話し、かつビールを煽っている。あな恐ろしや、とはこのことである。

 それはさておき、コロナによる経済クライシスは並大抵のものではなくなった。2020年の世界GDPはおそらくマイナス5%になる見込みであり、これはリーマン・ショックのマイナス0.1%をはるかに凌いでいる。いまや世界の企業の3社に1社が赤字という惨状であり、4~6月の米GDPについてはなんと前年比32.9%減を記録し、期待されたV字回復は困難だというアナリストが多い。

 もちろん、この影響は世界最大の工業である自動車産業にも及んでいる。4月段階でトヨタ自動車など乗用車8社がまとめた世界生産は、前年同月比60.5%減の91万6225台と大幅に落ち込んだ。リーマン・ショック以降でもっとも減少幅が大きかった09年2月の45.8%減よりも大きく落ち込み、08年以降では過去最大の下落幅となっていた。

 米国自動車のビッグ3は、もはや追い詰められたと言ってもよい状況だ。2019年の世界販売は、合計で前年比8%減少し、世界シェアは初めて2割を切った。中国など新興国で販売が落ち込んだのだ。GMの世界販売は771万台で8%減った。フォードモーターは10%減の538万台だった。フィアットクライスラーオートモービルズも4%のマイナスであった。こうした状況下で、コロナ禍が襲ってきたのだからして、もう「何の計画の見通しも立てられない」と米国自動車業界はまさに自暴自棄と言ってもよいかもしれない。

 もちろん、欧州やアジアでもひどいことになっている。高級車・商用車大手のドイツのダイムラーの2020年4~6月期の決算の赤字は2480億円になっており、コロナウイルスインパクトが直撃したかたちである。売上高は29%減であり、販売台数も54万台と34%減っている。韓国の大手である現代自動車の2020年4~6月期の連結純利益は、前年同期比62%減の340億円であった。販売台数は36%減の70万4000台に落ち込んでおり、売上高も前年同期比19%減と大きく落ち込んだ。

 こうした中にあって、トヨタ自動車の8月の国内生産台数は当初計画並みに回復するというのであるから、これは驚きだ。生産規模は新型コロナウイルスの感染拡大前の計画に比べて3%減となり、7月の1割減よりも持ち直す。一部工場では、休日の土曜日に稼働してまで間に合わせようとしている。

セミコンジャパン2019のTOYOTAブース
セミコンジャパン2019のTOYOTAブース
 トヨタの2020年1~6月のグループ世界販売は、前年同期比26.1%減の416万4487台にとどまった。新型コロナウイルスによる需要減は響いたものの、ドイツのフォルクスワーゲンの約389万台を上回り、上期で言えば6年ぶりの世界首位を奪還したことになる。マイナス状況の中で首位に立っても意味はない、と考える輩もいるだろうが、それにしてもこうした状況下でトヨタの強さは際立っている、とも言えるのだ。世界全体が不安になるなかで、「トヨタなら安全安心」という評判は高まるばかりなのだ。

 ちなみに、ライバルの日産自動車の1~6月期は40.8%減の146万214台で、落ち込み幅は最大となっている。しかして10年ぶりの新型EV(電気自動車)である「アリア」を2021年に市場投入して、米テスラや中国勢の追撃に入る姿勢は固めている。ホンダは5月の販売台数が前年同月比45.1%減ったものの、中国市場の割合が30%以上あり、ハイブリッドの比率は9%と高いため、今後善戦するものと思われる。

 中国政府がハイブリッド車を低燃費車と位置づけて優遇する政策を決めており、これはトヨタにとっては最大の追い風となる。何しろ世界でもっとも売れている環境車はトヨタのプリウスであり、圧倒的な強さを見せつけている。そのプラグインハイブリッド版においては厳しいと言われる欧州規制もクリアしている。それだけに、中国侵攻作戦はますます加速するだろう。トヨタの中国販売におけるハイブリッド車の割合は2019年実績で約16%であるが、2020年代の早期にトヨタブランド全体で約30%まで高める計画なのである。

 そしてまた、燃料電池でもトヨタは中国において素早い動きを開始した。すなわち、中国大手自動車など5社と燃料電池を開発する合弁会社を設立し、その新会社が開発したFCV(燃料電池車)のシステムを2022年をめどに中国のトラックやバスに提供するという。今後、北京市内に研究拠点を設けて、燃料電池の基幹部品、制御システム、その他を徹底的に開発するという。中国はEVと並ぶ新エネルギー車の柱に、FCVを位置づけており、この技術開発と量産供給を圧倒的にトヨタに依存するというかたちになっているのだ。

 さて、2020年3月期のトヨタの連結純利益は、前期比25%増の2兆3500億円である。売上高は2%減の29兆5000億円、世界販売台数は1%増の1073万台という成績を出している。しかして、そのトヨタにして2021年3月期の連結純利益は一気に落ち込み5000億円になってしまうという。ある証券会社の自動車アナリストは、このトヨタの状況についてこう語っていた。

 「こんなに世界がメタメタになっており、こんなに自動車業界が惨憺たる有様にあるなかで、それでも5000億円の純利益を出すトヨタという会社はやはり素晴らしい、と言えるのではないか。そしてまた、中国政府の補助金を追い風にして、6月の中国向け輸出も好調であり、愛知県田原工場などから輸出する高級車『レクサス』の中国販売は前年同月比で2割も増えている。世界の自動車業界のトヨタを見る目はやはり1枚上の存在ということなのだ」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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