商業施設新聞
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No.767

タイムスリップ


松本顕介

2020/8/4

 ドラマや映画の世界では、主人公がなんらかの弾みでタイムスリップし、タイムスリップした先(時代)の世界にうまく対応できず、その(世界の)現実に戸惑いながら徐々に新しい世界に馴染んでいくとともに、その世界の全貌が明らかになっていく――というのが定石である。予想だにしない世界であればあるほど見る者を引き込んでしまう。ここで2019年の自分が、20年の今にタイムスリップしたと妄想してみる。

 『おもむろにテレビをつけてみると、ニュース番組のスポーツコーナーで今日のプロ野球の結果を振り返っている。嶋(前楽天)がヤクルトに、ロッテは随分変わったと思える。福田(前ソフトバンク)、鳥谷(前阪神)がいるではないか。いやいや楽天はもっとすごい。涌井(前ロッテ)、鈴木大地(前ロッテ)、牧田(前パドレス)と揃えた。そして巨人にウィーラー(前楽天)がいて、バレンティン(前ヤクルト)がソフトバンクのユニフォームを着ている。さらには巨人戦なのにまるで消化試合のような観客の少なさだ。もう秋なのかと日付を確認しようと新聞を開いてみる。7月25日だ。すると見たことも無い、見出しが目に飛び込んでくる。

 「感染拡大」「コロナ禍」「クラスター」「夜の街」「3密」「PCR検査」「テレワーク拡大」「GO TO キャンペーン」……。「withコロナ」に至っては『コロナと共に?』『コロナと一緒?』と、もはやなんのことだかさっぱりわからない。だが、つぶさにニュースを追ってみると、年末ごろから中国・武漢で発生した新型コロナウイルスが全世界に蔓延し、その感染者数は世界で1600万人を超え、最も感染者が多いのが米国で、その数は400万人にのぼっている。死者の数も全世界で65万人を超えたようだ。そのほかに「米中摩擦」「両国報復の領事館閉鎖合戦」の文字が踊る。

 我々のフィールドである流通・小売りやデベロッパー関連分野も大変なことになっている。百貨店売上高が9割減で、多くが今期の見通しを立てられないという。主要外食チェーンは今期業績見通しの多くが赤字だ。またレナウン、ブルックスブラザース、JCぺニーズなどそうそうたる企業が経営破綻した。ホテルもファーストキャビンやホワイトベアーズが経営破綻したようだ。

五輪野球の会場となる横浜スタジアム。写真は右翼席の増設工事が終わった19年3月ごろ
五輪野球の会場となる横浜スタジアム。写真は
右翼席の増設工事が終わった19年3月ごろ
 そして、7月24日は東京オリンピックの開会式だったが、まさかに東京オリンピック・パラリンピック開催が延期されることを知り、腰を抜かした……。

 「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもので、この有り様を誰が予想しただろう。悪夢のような20年だが、来年7月24日にはなんとか五輪開催にこぎつけてもらい、そろそろ悪夢から目を覚ましたいものだ。そして来年にはあのドキドキを、感動を目の当たりにしたい。北京五輪以来の復活となる野球、久保建英の活躍が期待される男子サッカー、陸上はサニブラウンの100m、彼を中心とした桐生・山縣・小池の400mリレー、バドミントンは金メダルラッシュ、柔道の大野、原沢、ウルフ・アロンの金メダルで井上康生を泣かせたい。萱、谷川の若手が台頭する男子体操で内村は出場できるのか、水泳は好調瀬戸大也に刺激されて復活の狼煙を上げる荻野康介、マラソンはどこまでアフリカ勢に食い込めるかと思うとウキウキしてくる。

 ここへきて開催を危ぶむ声もにわかに聞こえ始めているが、そのタイムスリップ噺も最後はハッピーエンドで終わらせたい。エンディングが開催中止ではあまりに悲しい。
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