創業82年目を迎える電子部品老舗メーカーの(株)トーキン(宮城県白石市旭町7-1-1、Tel.0224-24-4111)は、得意の磁性材料を主軸とするMSA(マグネティック・センサ&アクチュエーター)とキャパシタで事業展開を図り、八十余年に及ぶ素材革新を堅持し続けている。業界再編の流れのなか、2017年に米KEMET社の完全子会社となり、20年6月にはKEMETが台湾ヤゲオの完全子会社となったことで、トーキンはヤゲオの孫会社という位置づけにある。7月から代表取締役社長に就任した片倉文博氏に、トーキンの現況および今後の展望などについて幅広く話を聞いた。
―― ご経歴から。
片倉 1982年に慶應大学法学部を卒業後、海外通信プロジェクトに携わりたいとの思いから日本電気(NEC)へ入社した。入社後は通信の調達業務を18年間担当。調達でやるべきことはやり切ったと思えたことから経営企画部門へ異動し事業投資、企業買収など新領域に挑んだ。その後海外営業を経験した後、09年にリーマン・ショック直後の事業構造改革を託されるかたちでトーキンへ移った。事業構造改革に一定のめどがついた段階で新事業推進本部の立ち上げを提案し、同本部の部門長に就任。ここで各事業部別ではなく本社から同本部へファンディングを任せてもらう新体制を構築し、複数の新生プロジェクトを推進することになる。
―― 手がけられた新生プロジェクトとは。
片倉 将来に向けた新規事業のため、実を結ぶのはほんの一握りだ。そのなかで、東北大学金属材料研究所の牧野彰宏教授(当時)が発明され、東北発素材技術先導プロジェクト「超低損失磁心材料技術領域」として当社もともに取り組んだナノ結晶合金「NANOMET」の研究開発は、現在の当社主力セグメントであるMSAのうち約7割を担うマグネティック(磁性デバイス)の新材料として期待している。
―― 製品セグメントは。
片倉 セグメント別では金額ベースでMSAが約6割、キャパシタが約4割を占めており、前述のとおりMSAの中でもマグネティックが主力だ。このMSAの各製品群の世界シェアは数%程度ではある。しかし、少しメッシュを細かくすると、自動車電動化のイーコンプレッサーやオンボードチャージャーにおけるフェライト材料を使ったコイル、医療機器における超弾性合金「メモアロイ」など、トーキンの存在感が高い分野がいくつか見えてくる。
―― トーキンの強みはどこにあると見ますか。
片倉 アプリのメッシュを細かくした場合のトーキンの存在感という視点から、グローバルニッチナンバー1を目指せる分野が複数存在するという点が挙げられるだろう。自身の調達部門時代の経験に照らし合わせると、調達側がまず声をかけるのは、その分野のトップサプライヤーだ。トーキンも強みを発揮できる分野でナンバー1を誇れる領域を増やしていく必要がある。また、八十年の歴史がある「素材革新」は圧倒的な強みだ。当社は素材から完成品まで一貫生産を行っているが、なかでも素材はパウダーベースの品質からこだわり、管理も徹底してコントロールしている。
―― ここ数年はM&Aに積極的な印象です。
片倉 13年に電子部品メーカーのKEMETと資本・業務提携を行い、17年にはKEMETの完全子会社となった。そして、直近の20年6月にKEMETが台湾電子部品メーカーであるヤゲオの完全子会社となったため、当社は現在ヤゲオの孫会社という位置づけにある。この一連の流れを経て、グループ全体としてはほぼすべてのディスクリート部品が揃ったかたちとなり、売上高3000億円超を誇る規模となった。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2020年7月24日号1面 掲載)