東芝デバイス&ストレージ(株)(TDSC、東京都港区芝浦1-1-1)は、東芝グループの中で半導体やHDD製品などのキーデバイスを扱う。2019年度からは、東芝マテリアルや東芝ホクト電子もグループ内に取り込んだほか、20年度からは製造装置メーカーのニューフレアテクノロジー(NFT)を完全子会社化した。事業同士の相乗効果を追求し、独自の成長路線を歩む。新型コロナの逆風下、20年4月1日に社長に就任した佐藤裕之氏に足元の市況と今後の事業展開を聞いた。
―― 4月1日にTDSCの新社長に就任されました。ご略歴から伺います。
佐藤 もともとHDD事業部に長く所属し、同事業部の事業部長を務めていた。15年9月からは東芝本体の経営企画部長に就任し、現在実行中の東芝Nextプランの立案・執行に携わった。まさか自分がTDSCのトップとして陣頭指揮を執るとは思わなかったが、これまでの経験を生かした事業経営ができると考えている。
―― 19年度の事業総括をお願いします。
佐藤 19年度は、秋口までは米中貿易摩擦に伴う景気減速の影響や世界的な自動車販売の低迷を受けて、伸び悩んだ。10~12月に少し改善の兆しが見られたと思ったら、新型コロナの影響で一転して厳しい状況となった。この結果、デバイス&ストレージソリューション事業の売上高は、前年度比20%減の7456億円となった。前年度はNFTののれん減損があったため、営業利益は同7%増の134億円となったが、コロナの影響で営業利益に119億円の下ぶれ要因があったとみている。
―― 足元の景況感は。
佐藤 ディスクリートやニアラインHDDの需要は好調だ。自動車や産業機器向けなど一部のアプリケーションで低迷する製品もあるが、一方でリモートワークの普及などに伴い、パソコンをはじめゲーム機器など旺盛な製品もあり、関連デバイスへの引き合いが強い。
―― 20年度の事業見通しを教えて下さい。
佐藤 コロナの影響を除いた売上高/コア営業利益で8670億円/570億円をそれぞれ見込んでいる。ただしコロナの影響で、売上高で1170億円、営業利益で350億円の下ぶれ懸念を想定している。
NFTの中国向け装置の確実な売り上げや、ディスクリートやニアラインHDDの需要好調で、増益基調を目指す。
―― 19年度から、東芝マテリアル、東芝ホクト電子をTDSC傘下に組み入れ、20年度からはNFTを完全子会社化しました。
佐藤 より相乗効果を発揮でき、新たな付加価値を構築できると判断している。NFTは、完全子会社化したことで企業価値を高められる。次世代のマルチビームマスク描画装置はほぼ完成しており、21年度の売上寄与を目指す。装置性能のカギを握るマルチビーム制御素子の開発には両社で180人のエンジニアを投入している。
東芝マテリアルは、ハイブリッド車(HV)などエコカーの心臓部であるパワーコントロールユニットに搭載されている絶縁回路基板で実績がある。特に靭性のある窒化ケイ素(SiN)基板の大手として注目されている。また東芝ホクト電子は、DNAチップなどのユニークなデバイスの生産能力を保有する。先ごろ新型コロナの抗原検査キットの製造能力増強のため、みらかホールディングスや日立製作所と協力していくことで合意した。東芝ホクト電子・旭川工場の建屋を含めた生産体制を提供するとともに、高信頼で医療関連部品の製造実績を生かして同キットの安定的な生産を支えていく。
―― 車載半導体の市況ならびに回復時期は。
佐藤 19年度前半から顕在化した車載向けのデバイス需要低迷が依然継続している。当社は車載関連事業が多いため、その影響は大きい。コロナ禍で自動車メーカーやティア1企業らが工場停止を余儀なくされており、車の生産計画にも影響が出てくるだろう。顧客の開発や投資計画にも今後変更が出てくれば、当社としても事業計画を練り直す必要が出てこよう。
車載市場が本当に以前の状態に戻るのには、21年度後半までかかる可能性もあるとみている。
(聞き手・副編集長 野村和広)
(本紙2020年6月25日号1面 掲載)