「確かにスマホの台数は一気に12億台くらいまで落ちることも考えられる。ピークに比べれば3億台も少ない。それでも5Gやデータセンター絡みの半導体の需要は急増することは確実だ。それゆえに、新型コロナショックの中にあっても、強気の生産および販売計画を捨てるわけにはいかない」
これは日本を代表する半導体製造装置メーカーの大幹部が筆者に語った言葉である。確かにそのとおりだな、と思いながら、走っているのはロジックとファンドリーであり、大本命のメモリーはまだ本格的にはやってこないのに、そんなに強気でいいのかという思いがしてならなかった。
もっとも最大手の東京エレクトロンは、現状で半導体前工程に対する設備投資は全く止まっていないとしながらも、2021年3月期の業績予想を未定としている。その本当の理由は、新型コロナウイルスが与える経済の傷跡の大きさが見えてこないからだ。
半導体装置メーカーはコロナ渦の中でも強気
(セミコンジャパンのパーティー会場)
同じく大手のSCREENも21年3月期業績見通しを未定としている。ただ、同社の20年1~3月期受注は624億円であり、前期比37.7%増という活況にあった。
世界最大手の半導体装置メーカーであるアプライド マテリアルズもまた、「新型コロナウイルスによる大きな影響は受けていない」との見方を表明している。確かに、5G高速のコンピューティング立ち上げと、データセンターの投資ラッシュがはっきりと見えている以上、ロジック半導体については不安はないと思われる。ただし、大票田のDRAMおよびNANDフラッシュメモリーの爆裂はいまだ見えてはいない。一時期は足りなくなることが予想されてメモリー価格は急上昇したが、ここに来て横ばいとなっている。不安要素は消えないのだ。
そしてまた、やけくそとも言うべきトランプ大統領が仕掛けている米中貿易戦争もとどまる気配を知らない。ファーウェイに対する米国製製造装置を使って作った半導体の出荷停止は、かなり大きな出来事だろう。そして英国もこれに同調している。
ただ、そうは言っても、米国の黒人暴動は記録的なものとなっており、反トランプの機運は米国中に満ち満ちている。民主党のバイデン氏はかなりの年寄りであり風貌も冴えないが、それでもオバマ氏が支持すると言っただけで、次期大統領選は民主党の勝ちと見る向きは強い。そうなれば、トランプ氏ほどには中国を痛めつけないであろうから、情勢は変わってくる。
一方で、日韓の輸出規制問題も決して楽観は許さない。新型コロナウイルスを抑え込んだことで、文大統領の人気は一気に上がったが、韓国経済はGDPの柱となる輸出が23%も減っており、まさに断崖絶壁の経済状態となっている。にもかかわらず、このコロナ禍の中で文政権は、またも従軍慰安婦、徴用工問題などを引っ張り出して、WHO提訴も辞さないとの脅しを日本政府にかけている。
「反日もいい加減にせいや」という日本国民の感情もあるわけであり、もう少し世界情勢を見たうえで日本との関係を探ってほしいと思えてならない。
ちなみに、日系の半導体関連企業はこうした日韓対立の図式を見て、韓国における現地生産を強めている。東ソーは現地法人を設立したし、ADEKAはHigh-k材料などを韓国の現地生産に切り替えている。東京エレクトロンに至っては、サムスン電子の近接にテクニカルセンターを新設した。太陽ホールディングスは、半導体パッケージ基板向けのソルダーレジストを韓国で生産することを決めている。
本来であるならば、反日の文政権はこうした動きを止めるはずであるが、全く黙認状態となっている。なぜならば、日本企業の進出や増強が相次げば、雇用が生まれるわけであり、税収も上がってくるわけだから、表面上言っていることとは異なる事情があるのだ。それゆえに、日本の韓国への設備投資を決して嫌がることはできないのが本当のところであろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。