電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第2回

未来と自分は変えられます!!


~ニッポン半導体復活にかける男たちの夢は終わらない~

2012/7/6

 わが家でしたたかに酒を飲んで、うつろな眼でテレビのバラエティーショーを見ていたら、ついぞ眠り込んでしまった。だいたいがバラエティーショーというのは、今は予算がなくなり、高質なドキュメンタリーや、気合の入ったドラマを作れなくなったテレビ局が、その場しのぎでやっているだけのものなのだろう。売れなくなった太めの女性タレントやしわしわの女優たちが、クイズやゲームではしゃぐ姿を見て何が面白いのだろう。引き立て役といえば、昔でいう太鼓もちのような男の芸人が、これまた空々しく盛り上げようとするが、おじさん記者はそれを見て、とても笑えないなとつぶやくばかりだ。

 ところがある番組で、何かの折に一人のコメンテーターが次のような言葉を吐き出した。「未来と自分は変えられます!!」

 まことに含蓄の深い言葉かと、目を凝らしてその言葉を吐き出したコメンテーターを見れば、なんと石田純一氏であった。ある程度は学識のある人がこうした言葉を口にすれば、それなりに胸に響くだろう。しかしながら、若い女の尻を追いまわし、いつでもモテモテの中高年の男がいったとなれば、別の意味にも聞こえてくる。次々と女を変えていく自分を反省し、未来こそはしっかりと生きていこう、との思いでかのタレントがそういったのであれば、それはそれで意味があるだろう。

 ところで、惨敗に次ぐ惨敗を重ねている日本の家電産業にとって描ける未来というのはあるのだろうか。どうあがこうとも、世界一高い水、電力、労働力、インフラ、税金で戦う日本勢にとって、汎用のエレクトロニクス機器はもはや世界ステージで戦えない代物になってしまった。海外での生産を加速するという解はあるものの、今や巨大資本の塊となってしまった中国、台湾、韓国などのメーカーに対抗できるとはとても思えない。筆者は月に数本の講演を行っているが、電機業界の聴衆がここ数年間にわたり、見る見る元気がなくなっていく様を目の当たりにしている。「ガンバレ、ニッポン半導体!!」と檄を飛ばしても、うつろな目がこちらを見ているだけ、ということも少なくない。未来の構図を描きにくくなった人たちの有様は実につらいものがある。

 しかして、かの石田純一氏の言葉を反芻してみたところ、自分は変えられる、ということだけは真実だと思い当たった。確かに、人は変えられない。もしかしたら会社や組織も変えられないかもしれない。それでも自分だけは、自分で変えることができるのだ。とても到達できるとは思えない半導体の高度テクノロジーへの挑戦。世界にたった一つしかないものを作るという電子機器への憧れ。エンジニアとしての本分を全うし、自分なりの目標設定で戦う毎日の充実。給料がいくらカットされても、アジア勢との戦いに敗れたとしても、戦い抜く自分の気持ちだけは失わない、ことはできるだろう。

エスティケイテクノロジーの丸井社長
ニッポン復活を誓う大分県LSIクラスター
(6月25日)
(壇上はエスティケイテクノロジーの丸井社長)

 かつて世界を席巻したDRAMというメモリー分野でついに日本は完敗をきっした。エルピーダメモリの破綻がすべてを物語る。かつて、80年代後半に東芝、日立、NECなど日本勢が1MDRAMで世界シェア90%を占有した時代もあった。それは夢物語に終わってしまったのか。いやいやそうではない。DRAMの時代はいずれ終焉を迎え、これに取って代わるメモリーの本命はMRAMであり、立体構造や回転を利用した超高性能を発揮する。このMRAMの分野については現在、東芝・ハイニックス連合が世界で一歩も二歩も抜け出した形となっている。
 メモリーにかけた男たちの夢は終わらない。そしてまた、ニッポン復活を信じて、日夜死に物狂いの戦いを続ける開発者たちの夢も終わらない。



泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索