電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第386回

「何もせず、批判だけしている者」は男としての最低評価なのだ


~大阪の吉村知事の哲学は鬼島津の「薩摩の教え」によるもの

2020/6/5

 新型コロナウイルスのパンデミックで世界が揺れ動き、日本列島もまた恐怖と不安の日々を送ることが続いている。しかし、ようやくにして政府による「緊急事態宣言」の全面解除がアナウンスされ、コロナ終息に向けての方向性が見え始めたことは朗報と言ってよいだろう。

 この間に様々な政治家による動きがあったが、誰よりも水際立った政策と実行力で一番人気を集めたのが、大阪府知事の吉村洋文氏である。イケメン、若さ、そしてあふれるばかりの情熱でぶつかっていく吉村氏の行動は大阪の人たちばかりでなく、日本中の視線を一手に集めた。そして何よりも女性たちの圧倒的な支持がある、と思えてならない。

大阪の吉村府知事(市長時代)
大阪の吉村府知事(市長時代)
 昨今の男たちのどっちつかずのあいまいさ、はっきりとした発言なくごまかしの言動を見続けている女性たちにとって、吉村府知事の対応、態度は「お見事!! 鮮やか!」と感じられたのだろう。ちなみに、筆者は吉村氏が大阪市長時代に講演でご一緒させていただいたことがある。控室で少しだけ会話したのであるが、「何というオーラのある人なのだろう」と直感的に思ったものだ。そして、筆者のようなゴロツキ記者に対しても、非常に丁寧で腰の低い方であった。

 さて、ある日ある時、かの吉村知事が大切にしている言葉はありますか、という問いに答えて「薩摩の教え」をいつも信条にしているとのコメントを出され、筆者も深くうなずいたのであった。「薩摩の教え/男の順序」というのは、戦国時代の猛将として恐れられた島津義弘の訓戒の言葉なのである。それは次のようなものだ。

 ◆評価されるべき人の順序
 1位 自ら挑戦し成功した者
 2位 自ら挑戦し失敗した者
 3位 自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者
 4位 何もしなかった者
 5位 何もせず批判だけしている者

 いやあ、何というすばらしい教えなのであろうか。筆者はこの5位ランキングのうち、とりわけ2位の「自ら挑戦し失敗した者」を高く評価するという島津義弘の考え方に多く共鳴するものがある。日本人の美学として、一所懸命に死に物狂いの努力を続けたが、あえなく敗れ去った者を称える、という気風がある。夏の甲子園野球(残念ながら今年は中止! かわいそうな球児たち!!)において、勝ったチームよりも負けたチームに拍手が多い、ということはままある事実なのである。

 そして面白いのは、「何もしなかった者」よりも「何もせず批判だけしている者」の評価が低いことだ。言い方を変えれば、何事も成しえず、提案すらすることなく、ただじっと黙っている輩よりも、何もしないくせに、ひたすらにやろうとしている者に茶々を入れ、計画そのものを人ごとのようにあざけっている輩が最低の人なのだ、ということだろう。

 筆者に言わせれば、さらに6位として「何もせずひたすら人の邪魔ばかりする者」を入れてもらいたい。やらないのはいい。できないのも仕方がない。ただ、お願いだから邪魔だけはしないで。あんたはそこに立っているだけでいい。邪魔さえしなければ許してあげるからね。長い記者人生の中で、こうした思いに立たされたことが何回あるだろう。

 この「薩摩の教え」は現代のビジネス社会にもピッタリあてはまることばかりだ。あらゆる組織において、あらゆる会社において「挑戦しようとする者」がどれだけ疎んじられ、退けられ、そしてまた嫌われていることか。村社会であり、横並び社会であるニッポンのコミュニティーは、「挑戦する者」の足を皆で引きずり下ろしてきた歴史がある。それでも果敢に戦い、周囲を敵に回しながらも、成功を勝ち取っていった人たちの輝かしい歴史も一方にはあるのだ。吉村知事はまさに挑戦した人であり、勝利をもぎ取った人であるが、いっそポスト安倍の内閣総理大臣にしたい!という声は巷に満ち満ちてきた。日本の政治を変えたい、といううねりが起きてくることを心から祈るばかりである。

 島津義弘の教えはその後も引き継がれ、幕末に至って西郷隆盛、大久保利通を生み、明治維新の原動力となっていった。近代ニッポンを誕生させた思想の背景の1つに「薩摩の教え」があったのだ。そして、今日に至り、すばらしい財界人、経済人が少なくなったと言われる日本の現状の中で燦燦として輝く人、それが半導体パッケージで世界を席巻した京セラ創業者の稲盛和夫氏である。彼もまた薩摩の人であり、「今も挑戦し続ける者」なのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索