inaho(株)(イナホ、神奈川県鎌倉市材木座4-10-14、Tel.0467-37-5279)は、RaaS(Robot as a Service)モデルによる自動野菜収穫ロボットを中心とした生産者向けサービスを提供するスタートアップ企業。2019年9月に初号機を納入して本格的なサービスを開始し、AIとロボティクス技術で農業を変革する取り組みを進めている。代表取締役CEOの菱木豊氏に話を伺った。
―― 貴社の事業から。
菱木 当社は17年設立のスタートアップ企業で、RaaSモデルによる自動野菜収穫ロボットを中心とした生産者向けサービスを展開している。これは、人の判断が必要な農作業をAIとロボティクスで代替することを目指した取り組みで、事業モデルとしては、ロボットの初期導入費用を無料にし、市場の取引価格と収穫量に応じて利用料を得る、いわゆるRaaS型を標榜する。
自動収穫ロボットについては、ロボットアームを搭載したクローラー型の移動体がビニールハウス内を巡回移動し、センサーで収穫物を認識してロボットアームで野菜を収穫しカゴの中に入れる仕様となっている。第1弾としてアスパラガスの収穫ロボットを開発。19年9月に佐賀県のアスパラガス農家に初号機を納入し、本格的なサービスを開始した。
―― サービス開始後の反響は。
菱木 サービスの開始を発表して以降、全国のアスパラガス農家の方だけでなく、トマト、イチゴ、キュウリなど、様々な農作物の生産者の方から問い合わせをいただいている。そのなかには、収穫ロボットだけでなく、雑草の刈り取りや害虫駆除の機能を有するロボットの開発要望などもあった。また、農業関連の企業・団体を中心に、自治体や官公庁、海外からロボットを視察されるケースも増えている。
―― 開発面での取り組みについて。
菱木 アスパラガス1本あたりの収穫時間を短縮する取り組みに加え、アームや車体の耐久性の向上にも取り組んでいる。また、ロボットが適切なアスパラガスを判断・収穫する確率の向上も重要なテーマとなっており、アスパラガスの次としてトマトの自動収穫も検討している。
―― 出資者も増えていますね。
菱木 19年8月に伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(株)(東京都港区)、創発計画(株)(川崎市麻生区)、(株)ドフ(東京都港区)、複数の個人投資家から合計約1億7000万円の出資を得た。得た資金を活用し、自動野菜収穫ロボットの量産を進めるともに、エンジニアの採用や対応作物の拡大に向けた研究開発を実施している。また、市場開拓やアライアンスの拡大を目的としたマーケティングの体制も強化中だ。
―― ロボットに搭載する部品について。
菱木 太陽光などの外乱に強く、精度の高いカメラやセンサーなどは必要性が高まっている。また、コストパフォーマンスの良いアクチュエーター(サーボモーターやリニアモーター、減速機といった駆動部)や、距離センサーやメカスイッチといったプリミティブなセンサーなどもロボットの性能を高めるために重要であり、こうしたものを含めて新たな製品などがあればぜひご提案いただきたい。また、当社のようなハードウエアを開発するスタートアップと部品メーカーのマッチング機会の創出などもぜひお願いしたい。
―― 今後の抱負を。
菱木 新型コロナウイルスの影響により、部品調達の遅延や20年内に予定していたオランダでの事業展開に遅れが出ているが、農業分野の人手不足や高齢化は依然として大きな課題として残っており、事業スピードを緩めることなくRaaS型で自動野菜収穫ロボットを展開していき、20年末までに100台以上のロボット運用を目指す。
また、当社は支店やサポート拠点から車で約30分圏内の農家の方のみにロボットを提供することを基本軸としており、今後はそのための拠点の開設にも力を入れていく。これまでに佐賀県鹿島市と佐賀市南佐賀に支店を開設しており、22年までに全国で40拠点を開設し、ロボットを1万台以上運用する体制を構築していきたい。そして、そういった取り組みを通じて、ロボットが収穫作業を行うことが当たり前になり、農家の方には野菜の品質向上に関する研究や販路拡大のための営業活動など、人にしかできない作業により多くの時間を使っていただけるような農業の未来を日本発のテクノロジーで作り出していければと思う。
(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2020年5月14日号9面 掲載)