電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第382回

新型コロナウイルスの一大ショックの中で「中国ひとり勝ち」の展開はあるのか


~YMTCは128層3D-NAND開発成功、ギガデバイスDRAM参入など急ピッチ~

2020/5/8

 新型コロナウイルスの猛威は、少しだけ感染者数の増加ペースが鈍化したとはいうものの、世界経済に与える影響はとてつもなく大きい。世界における感染数は300万人を突破し、死者も21万人を超えてきた(4月27日時点)。1929年の世界大恐慌にも匹敵するほどの経済クライシスが訪れてきたと言えるわけであり、IMFの試算によれば、2020年の世界経済見通しはマイナス3%というとんでもない数字をはじき出している。08年のリーマンショックが0.1%のマイナス成長であったことを考えれば、この大きな傷跡はそう簡単には回復しないだろう。

武漢・漢口駅
武漢・漢口駅
 中国・武漢から始まったと言われる新型コロナウイルスの蔓延であるが、周知のように中国は8万人を超える感染者数を出したにもかかわらず、いち早くほぼすべて終息した、との宣言を出している。しかして、死者数といい、終息の状況といい、中国の数字をそのまま受け取る人は世界中どこを探してもいないだろう。何しろ情報管制をしてしまう国だからして、本当に正確な情報がメディアによって伝えられることはほとんどない、とさえ言えるのだ。

 さて、こうした新型コロナによる大騒動下において、中国では驚くべき発表が相次いでいる。まずは、中国の国営企業とも言うべき北京紫光集団の傘下にあるYMTC(長江ストレージ)は、4月13日になんと、最新型の128層の3D-NAND型フラッシュメモリーの開発に成功したと発表したのだ。すでにこの分野で先頭を走るサムスン、これに次ぐ東芝・WDグループ、SKハイニックスはいずれも128層の量産を成し遂げているが、こんなに早く中国のYMTCが追い付いてくるとは思わなかった、と見る向きは多い。もちろん開発成功であるからして、年内に予定される量産開始では、おそらく歩留まりに大きな問題があるだろう。

 4月10日には、中国のファブレス半導体メーカーであるギガデバイスが第三者割当増資を認可された。この増資で、最大43億2400万元(約670億円)を調達し、汎用の半導体メモリーであるDRAMの開発・生産に参入してくるというのだ。当初は10nm台後半の加工技術でDRAMに参入し、年内に設計と試作を終えて、21年にも量産開始を目指すという。

 これでお分かりであろう。中国政府の半導体へののめり込みは全く止まっていないのだ。すでに中国政府の半導体ファンド第1弾では2兆1000億円を投入し、それなりの成果を出している。そしてついに第2弾の投資、3兆1000億円を実行に移すと言われる。重要なことは、この第2弾で、成膜装置、エッチャー、洗浄装置、拡散炉などの核心的な半導体製造装置の分野にも踏み込んでくるということなのだ。

 設備投資にも全く手は抜かないだろう。2019年の世界半導体製造装置の販売額を見れば、地域別1位は台湾であり、1兆8832億円となり、前年比68%増となっている。これに次ぐのが中国であり、1兆4795億円の装置を購入したが、問題は台湾と異なり前年比の伸び率が3%増と少し鈍化してきたことだ。つまりは、かなりぶち上げるものの、キャッシュが不足してきたという証左であるのかもしれない。

 半導体産業だけを見れば、中国は超元気と言えるわけであるが、コロナウイルスの与えた影響は実に大きい。2020年1~3月の中国の経済成長率は前年同期比マイナス6.8%と、統計を取り始めてからの92年以降で初のマイナスを記録した。そしてまた、1~3月の輸出額も約51兆円であり、これまた前年比13%減となり、11年ぶりの下げ幅を記録している。4~6月期で一気回復と言っているが、中国の大きな輸出相手である米国や欧州の新型コロナウイルスによる経済の打撃を考えれば、いくら中国が作っても輸出が動いていかないということは充分に考えられる。

 そしてまた、世界のマスクの生産トップシェアを握る中国は、あらゆる国にマスク外交を実行しているが、この成果についてはどうなのだろう。また、医療機器の提供も申し出ているが、多くの国から全く品質が良くなくて使い物にならない、と押し返されている。

 さらに、4月13日にはとても無様なことが起きた。中国のロケット「長征7号」と「長征3B」の打ち上げが相次いで失敗したのだ。背景には、米国政府が半導体デバイスなどのハイテク先端品を中国に輸出しないということがあると言われる。「コロナ終息後は中国ひとり勝ち」と分析するアナリストもかなりいるけれども、英国のジョンソン氏、ドイツのメルケル氏、フランスのマカロン氏など欧州の首脳はこぞって「中国政府の透明性に問題がある」として、中国に批判的な構えも見せている。こうなれば、自由主義陣営の大国である4カ国を中国は敵に回すわけであり、そう簡単に中国ひとり勝ちというわけにはいかないだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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