東レコーテックス(株)(京都市南区吉祥院落合町15、Tel.075-691-5191)の前身は、1950年に設立された第一レースという会社であり、これは織物の染色・後加工を手がける会社である。様々な変遷を経て90年に東レの子会社となり、2000年の創立50周年を機に東レコーテックスへ社名を変更した。
東レは繊維製品の国内最大手企業であり、グループ全体の売り上げは約2兆2500億円(20年3月期見通し)というビッグカンパニーに急成長を遂げている。東レグループの中で東レコーテックスが担う役割は、高分子技術を駆使した様々な樹脂コーティング製品であり、多くの分野に展開している。最近では、化学工学、電子デバイスといった領域の開拓に全力を挙げている。同社を率いる代表取締役社長の木下淳史氏に話を伺った。
―― お生まれは京都の西陣ですね。
木下 木下染工所という小規模な糸染屋に生まれたが、この会社は残念ながら高校3年生の時に倒産してしまった。ただ、実家の持っていた職人文化は今の自分に生きていると思う。洛星高校に進み、山岳部に所属し、京都府代表としてインターハイに出たこともある。卒業後は早稲田大学政治経済学部に籍を置いたが、その後に巨人に入る山倉選手や、1年先輩には阪神の岡田選手がいたことをよく覚えている。
―― 貴社の概要は。
木下 52年にナイロン織編物の染色加工からスタートし、56年には合成繊維のコーティング加工を開始し、この分野のパイオニアとして活躍してきた。現在は高分子合成技術とコーティング加工技術の融合により、様々な素材を世に送り出している。素肌のように呼吸する素材「エントラント」は透湿防水加工が特徴であり、水滴サイズの水は通さないが、分子サイズの小さな水蒸気は通すという微妙な大きさの穴を開けることに成功したもので、スキー、登山、マリンといったアウトドアスポーツ分野で高く評価されている。そしてまた、ファッション衣料、靴、手袋などの合成皮革も展開している。全社売り上げの50%は衣料用素材が占めており、国内に加え、欧米スポーツアパレル向けが伸びてきている。
―― 特殊研磨クロスにも注力していますね。
木下 そもそも衣料用の多孔質のウレタン加工技術は、研磨材と要素技術が共通する。かつ当社は、ウレタン樹脂から開発し、重合もできる。半導体のシリコンウエハー用クロスについては長年の実績を持ち、お客様から信頼を得てきた。ハードディスクのアルミ・ガラス基板部品の製造工程にもこの特殊研磨クロスが使われてきた。
―― 半導体設備投資が伸びれば貴社も忙しくなりますね。
木下 そのとおりだ。生産能力は月産10万mまであり、十分に対応できる。研磨パッドに使われる製品はカスタマイズが重要であり、厚み、削り方、発泡する密度などに様々な工夫がいる。力技ともいうべき製品だ。専門商社を通じて販売しているが、顧客・工場・研磨工程によって求められる機能や特性が違うため、これに合わせ込むのが大変であるが、このカスタマイズが当社の使命であるとも思っている。
―― 職人技の世界です。
木下 確かにそうだ。ごく普通に仕事ができるまでに、少なくとも3年はかかる。多能工としての能力も求められる。ただ、IoT時代を意識して、新人を即戦力化するには機械のスピード、温度、張力、電流値などのデータ分析を徹底的にやる必要がある。そして、現場での『見える化』を進めなければならない。職人の技術のデジタル化が重要なのだ。AIやセンサーの導入、さらにはプロセスの見直しなど今後やることはいっぱいあるが、取り組まなければならない。
―― 女性力の活用については。
木下 総勢200人強の陣容で戦っているが、女性はこのうち2割弱を占めている。もちろん、男女の区別は一切ない。物流部門では、すでに初の女性課長が誕生している。品質保証・検査の分野でも女性陣は大活躍している。今後さらに女性管理職が出てくるだろう。高卒の新人がまず採れないという人手不足のなかにあって、今後は女性比率を上げていくことが肝要だ。
―― 今後の設備投資については。
木下 現在の設備能力については需要に十分対応できていると思う。ただ、立地自体、今や完全に京都の市街地である。半導体産業は今後、飛躍的に伸びてくるとの予想もあり、様々な対応を考えたい。そしてまた、将来的構想としては京都周辺に第3工場を作りたいとも思っている。しかして、もっとも重要なことは「メードイン京都」という当社のブランド力をあくまでも死守していくことにあるだろう。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
(本紙2020年5月7日号8面 掲載)